02
いぶきの返答に雅陽は満足そうに「そうかよ」と返事をしてきた。
「これから大変ですよ」鉄陽はニコやかに笑ってくる。相変わらず胡散臭い笑みだといぶきは思った。
これから自分はパライゾ軍として歩み始める。
何も分からない手探りの日々が始まる。それに臆する気持ちは無い。自分で決意したことだから。
天使と呼ばれる男2人と共に行くと決めたから。
見えなくなってしまった家には戻らない。
いぶきは思いながら先を歩く2人について行く。
ふといぶきはあることに気付いてしまい、しまったと思った。さっさと歩く2人に声を掛けるべきか迷う。やっぱり言った方が良いだろうな、いぶきは速足で2人に近寄り背中に生えている翼を引っ張った。
何だとばかりに2人が振り返ってくる。
「忘れ物ですか? 今なら間に合いますよ」
「…いや」
「じゃあ何だ? 未練がましいのか?」
「そうではない」
だったら何だ、早く言え。
雅陽の機嫌が急降下していく。
説明することが苦手ないぶきは、どう説明しようか考えたが周囲の状況を感じ悩んでいる暇は無いと決断し、手っ取り早く分かってもらう為、前方を指差した。2人が前方に視線を送る。そして顔を引き攣らせた。
前方にはワームと呼ばれるミミズのような巨大な生き物が何十匹もいた。
「この先は…ワームの巣だ」
「そ、そんなこと早く言って下さいよ!」
「いぶきっ、何で言わねぇ!」
「今…教えただろ?」
そういうことじゃない!
ツッコミと同時にワームの群れが襲い掛かってきた。
「今日は一段と数が多い」いぶきは逃げながら語るが、2人にしてみれば何で言わないとツッコミどころ満載だ。
「クソッ、まだ病み上がりだっつーのにこの半端ねぇ数。アリエネェ」
「あははは、パライゾ軍。ワームに襲われジ・エンド。笑えますねー」
「笑えねぇよ。クダラネェ」
確かにクダラナイ。
しかし、クダラナクナイ。以前の暮らしよりクダラナくなんかナイ。
この先待ち受けているモノはクダラナイものを打ち壊してくれる。いぶきはそう信じていた。
「雅陽…鉄陽…」
「今度は何だ!」
「この先は崖で行き止まりだ」
「ッ、だから先にそういうことは言って下さいよー! ッ、ああ!本当に崖ですし! ッ、どうします?!」
「下りる」
「……はい?」
「だから飛び下りるんだ! 後はどーにかなるだろ!」
「僕、病み上がりなのにもうッ…いぶき、元帥命令で崖から飛び下りるそうですっ、口答えは許さない状況ですので素直に聞いて下さいね」
いぶきはほんの少しだけ表情を緩め、2人に分かるよう軽く返事をした。
この道に悔いは無い。
これは自分で決めたこと。
いぶきはそう思いながら、天使達と共に目前となった崖から飛び下りた。
End
まだパライゾ軍は三人しかいなかった時代。
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