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*有るが儘(いぶき&フィンランディア)



パライゾ軍のフィンランディアといぶきの小話。
シリアスもどき、でも何処か切ないような、そんな雰囲気が漂ってるお話。
 

 * *
 

 有るが儘に生きることは容易で難易。
 それは誰でも知っていることなのだと思う。謂わば一種の常識。
 



「おかえり、いぶき!」

  
 
 外出していたいぶきに向かってフィンランディアは全力疾走した。駆け寄って来るフィンランディアに目を細め、いぶきは手中に収めているモノへ目を落とす。
 フィンランディアが手中を覗き込めば、枯れた一輪の花。茶に色褪せている花は美の欠片すらない。
 

「お花さん? いぶき、お花さん好きなの?」

「……いや」

 
 ヒトコト言葉を発して黙り込んでしまういぶきに、フィンランディアは困ったような笑みを貼り付かせた。
 いぶきはいつだって言葉足らずなのだ。説明を強いても、無口な彼は言葉足らずな説明を紡ぐだけ。結局は此方が思考をめぐらせて理解してやらないといけない。
 フィンランディアは再びいぶきの手中に収められている花に目を落とす。

「枯れちゃってるね」
「……寿命」
「うん、寿命がきちゃったんだろうね。そのお花さん。どうして摘んで来たの?」
「…なんとなく」
「お花さん、お名前なんていうの?」
「わからない」
 
 淡々と答えていくいぶきが静かに歩き出す。フィンランディアはいぶきの隣に並んだ。
 前を見据えているいぶきは、何を思って花を摘んで手元に置いているのだろうか。それはフィンランディアにでさえ分からない。共に歩いているといぶきが外に出るものだから、フィンランディアはますますいぶきの心情が読めなかった。
 
「いぶき、勝手にお外に出ちゃ雅陽や赤祢が怒るよ? 今さっき外出から戻ってきたばかりなのに、もう外に出るなんて」
「直ぐ戻る」
「ホントかな?」
 
 そう言って何度も失踪したことがあるいぶき。前科を持つだけに信用なら無い。
 黙っていぶきについて行くと、いぶきは足を止めてしゃがんだ。フィンランディアも足を止めてしゃがむ。地に目を落とせば、枯れた花に似た花が何本がそこに存在していた。
 いぶきは枯れた花を、その花たちに寄り添うよう置いてやっている。
 不思議に思いながらいぶきの顔を覗き込むが、本人は無な顔を作っている為、何を考えているのか分からない。フィンランディアは首を傾げていたが、そっと口を開いて思うことを口にする。


「お花さんたちと、一緒なら枯れても寂しくないね」

「花は…いずれ枯れる。どう散り枯れゆくか、それは花でさえ分からない。それでも花は有るが儘の姿で生きる」
 

 長ったらしい言の葉を口にするいぶきは、フィンランディアを一瞥して立ち上がった。
 
  

「花のように生きる…、生きた、奴等がいた」

 
 
 そっと、いぶきは口を閉じてしまう。フィンランディアは花に目を落としながら思った。
 いぶきはこの花を誰か、誰か達、に重ねているのだ。そして自分もそう在りたいと願っているのだ。あくまでそれは自分の予想に過ぎないが、いぶきはそう思っているのではないだろうか。

 
「フィア…」


 珍しくいぶきから声を掛けてきた。
 弾かれたようにいぶきを見上げれば、やはり無の表情を作っているいぶきがそこにはいる。
 
 
「1曲…いいか」
 
 
 フィンランディアは顔を綻ばせて頷いて見せると、ゆっくりと立ち上がった。
 軽く深呼吸すると、自分のお気に入りの歌を奏でだす。命沈み枯れた花や咲き誇っている美しい花の為ではなく、いぶきの為に。 

 歌いながらフィンランディアはいぶきの横顔を盗み見る。
 自分の隣で、いぶきは目を伏せて歌を聴いてくれている。

 
 まるで、自分の気持ちを隠すように、彼は、自分の歌に耳を傾けてくれていた。

 
 End
 



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あきゅろす。
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