*ポジティブ ヴァイブレーション(あかり&ネイリー) ネイリーとあかりの何でもない日常会話。 ポジティブなネイリーの何気ない言葉に、クサさを感じたり、前向きになれたり、そんな話。 * * 珍しくあかりくんが浮かない顔をして座っていた。 疲れ切ったような、思い詰めているような、そんな切羽詰った顔。相応しくない顔だと思うなぁ。 あかりくんはフロイラインと元気よく喧嘩したり、笑いながらお喋りする顔が似合っているのだから。 元気の付くように真っ赤な薔薇を懐から取り出して、そっと声を掛けた。浮かない顔をしたまま僕を見上げてくるあかりくんは、覇気のない声で僕の名を呼んだ。 薔薇を渡しながら、顔を指摘する。「顔が暗いぞ」と。 あかりくんは失笑して目を伏せてきた。 話を聞けば、部活で思うような成績を残せていないらしい。記録を更新することが出来ず苦しんでいるとか。もうすぐ選手決めがあるというのに、今の記録では選手にさえ選ばれないとか。 「手毬は、私よりも良い成績を残していってるんです。ちょっと嫉妬しちゃいました…私はいつもの調子で走れないし」 「フウム、スランプというヤツかね?」 「かもしれません。何だか走っていることが苦痛にさえ思えてきて。やめようかなー…部活」 「おやおや。あかりくんらしくない台詞だなぁ」 「だって、走るだけってつまらないですもん」 「少し前まで楽しかったのだろう?」 「それはそうですけどー……今は楽しくないですよ。昔が懐かしいです」 重々しく溜息をつくあかりくんは、何だか人生の全てに疲れたような顔をしている。 それが僕には無償に可笑しかった。 小さく笑えば、あかりくんが不貞腐れたように頬を膨らませてくる。そんなあかりくんに言ってやる。 「では、僕と一緒に好きな気持ちを取り戻してみるかい? とことん付き合うぞ?」 「え…え?」 「勿体無いと思ってな。やめるという選択よりも、好きな気持ちを取り戻す方が楽しそうだと思わないかね? 僕が付き合うんだ。きっと取り戻せるぞ?」 「と…と、取り戻すってどうやってですか?」 「まずはとことん僕と走ってみる。それとも走っている光景だけを目に映すかい? 僕は喜んであかりくんをお姫様抱っこして走るが?」 ウィンクするとあかりくんが全力で遠慮してきた。 照れ屋なのだな、あかりくんは。僕という吸血鬼にお姫様抱っこ、確かに照れるかもしれないなぁ。僕はカッコイイから。 「ま、まさかそんな風に言われると思いませんでしたよ。てっきり諦めるな…とか、頑張れ…とか言われるかと……」 「あかりくんが本当に走ることが嫌いならば、僕は何も言わないさ。しかし僕は知っている。あかりくんが走ることに情熱を抱いていることを。だから僕は言うのさ、好きな気持ちを取り戻してみるかい? と。あかりくんは忘れているだけさ。走る楽しさを。僕は付き合うぞ? その楽しさを思い出すまで。好きな気持ちを取り戻すなんて、ちょっとワクワクしないかね?」 あかりくんが自然と顔を綻ばしてくれた。 いつものあかりくんの顔だ。女性にしか出せない、可愛らしい笑みを浮かべている。 「…なんか、どんな励ましの言葉よりも励みになるような気がしました」 「やはり僕の言葉だからだろう?」 「ふふっ、そうかもしれません」 あどけない笑顔であかりくんは舌を出してきた。 後日、僕はあかりくんから新記録が出たと喜ばしい報告を教えてもらった。あかりくんは走ることをやめないそうだ。 僕は自分のことのように嬉しくなった。やはりあかりくんに走ることは嫌わないで欲しい、と思っていたのだろうなぁ。 喜びを噛み締めながらジェラールに話すと、こんなことを言ってきた。 「ネイリーと話すと前向きになるし、“負けるな”って言われてるような気がするのよん。あかりもそう感じたのよん。きっと」 柄にもなく僕の方が照れてしまった。 そうだと、本当に嬉しいな。 End 傷付いても、挫けても、負けそうになっても、ネイリーの言葉に立ち直る人達もいる。 ポジティブネイリーだからこそ説得力のある言葉があると思います。 いつもウザくクサいキザな吸血鬼ですが、ポジティブでは誰にも劣らないです。 [*前へ][次へ#] [戻る] |