[携帯モード] [URL送信]
*溢れ零れるくらいに満たしてあげるから、大好きな両手で包み込んで(風花&菜月)

 

“何でも屋”店員達のお話。
風花視点、恋愛要素180%、糖分多め注意報
 
 
 * *
 
 
 何っつーかさ、時々絶対に菜月の傍にいてあげなきゃイケないって時があるんだ。
 普段も傍にいないと浮気行為をするかもしれないから傍にいなきゃ! って思うんだけど、ふっと本当に傍にいないと危ないって予感がするんだ。
 なあんの根拠は無いんだけどさ、傍にいないと菜月が崩れるっつーか、消えるっつーか、菜月が菜月でなくなるような気がする。

 唐突に感じるんだよね。
 前触れなんて一切なし。
 
 
 とにかく電流が走ったみたいに第六感が働いて、焦燥感に駆り立てられて、居ても立ってもいられなくなるんだ。
 

 今もそう。
 部活終わって店に来てるあかりや手毬と和気藹々話してたんだけど、電流が走ったみたいに第六感が働いたんだ。あたしの様子に2人は怪訝な顔をして見てきたんだけど、あたしは食べていたホットケーキを掻き込んで席を立つ。
 
 2人に片手を出して直ぐ戻るって伝えてると、廊下に飛び出して浴室に向かった。 
 
 
 菜月は風呂掃除をしていた。
 浴槽の中に入って泡のついたスポンジで丹念に擦っている。なんか目が遠いような気がする。

 何を思って掃除をしてるんだろ。
 何も思ってないのかもしんないけど、あたしにとってそれが妙に脆く見える。
 
 あたしは浴槽を擦っている菜月に飛びついた。
 「うぇッ、ちょ、風花! イッダァア!」菜月が悲鳴を上げたけど、あたしは完全無視した。尻餅ついている菜月の体に抱きつく。
 腕まくりしているカッターシャツが視界に飛び込んでくる、皺が寄ってる。戻したらきっと皺だらけなんだろうなァ。余計なことを思っちまったよ。
 スポンジを持っていない手で菜月が背中を軽く叩いてくる。


「急にどうしたの、風花」

「どーもしてないし」

 
 どうかしたのは菜月の方だろ、なんて言えないけどさ。
 
 黙って菜月に腕の力を強くする。
 背中を叩いてくる優しい手が、そっとあたしの頭を撫でてきた。

「俺さ、お掃除したいんだけど。お風呂掃除」
「掃除とあたし、どっちが大切なわけ。回答によっちゃ心霊写真の刑」
「もぉー分かりきった質問してこなくてもいいでしょ、風花」

 
 いつもの調子で話してくる菜月に、幾度の安堵の息が盛れる。


 菜月は時々あたしのことさえ忘れて自分の世界に入る。何もかもを諦めたように。諦めてしまうように。
 本人は気付いちゃいないだろうけど、無意識にそうやって楽になろうとしているんだと思う。キッカケは些細なことだとは思うんだ。そうやって自分の世界に入ってしまっちまうのって。誰にだってあることさ。あたしだってあるし。

 ただあたしから見た菜月は、それが誰よりも酷く脆く淡く儚く見えるわけ。
 惚れちまった相手だから、そう見えるんだろうけどさ。傍にいてあげなきゃって思う。


 こうやって傍にいてやらないと、菜月は崩れちまう。断言できる。
 
 
「風花、いつまでこうやってるのかな。俺達」
「充電満タンになるまで。菜月はあたし欠乏症なの」
「俺が風花欠乏症?」
「そう、菜月があたし欠乏症」
「毎日一緒に居るのに欠乏症?」
「そう、欠乏症」

 くぐもった笑いを漏らして、菜月は天井を見上げながらあたしの頭を撫で続ける。

「ふーか欠乏症かぁ、そっかぁ」
「思う存分あたしで充電しろよ。ギュッ、してもいいし」
「俺の片手、泡だらけだから」
「じゃ、洗い流せばいいじゃん」
「え? つっ、冷た!」

 蛇口を捻ってシャワーを出す。
 冷たい水があたし達に降り注ぐ。
 「濡れる!」騒ぐ菜月の両頬を包んだ。びっくりした顔を作る菜月にあたしは笑ってやる。
 
 
 あんたにはいつもあたしがいるから、ダイジョーブだから、そう伝わればイイ。
 
 
 何も言わない菜月は握っていたスポンジを放して、ゆっくり手を伸ばしてくる。
 シャワーの粒子で泡が流れ溶けていく、その手、が両頬を包んできた。ひんやりとした手が気持ち良い。確かめるように両手で包んで菜月はあたしと視線を合わせてくる。
 
 
 
 誰よりも大好きな、誰にも譲れない大好きな、優しい笑顔がそこにあった。


 
 End

 

菜月が不安定だと、風花は本能で察知します。
逆もまた然り。
そうやって不器用ながら支え合っている二人です。

この後、びしょ濡れのまま仲良く二人であかり達のところに戻ります。「何してたんですか?! お二人とも!」あかりが素っ頓狂な声を上げるでしょう。
手毬は妙に期待を寄せて何をしていたか迫ると思います。
何せ、二人が手を握り合って戻ってきたのですからね。そりゃ手毬は何をしていたか気にします。



[*前へ][次へ#]

12/22ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!