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8-16

  

 それは珍しく自分が風邪をひいた時だった。


 皆に風邪をうつしてはいけないと自分の寝室に篭もり、ベッドの上で横になっていたら妹と遊びに来ていたジェラールが心配して部屋にやって来てくれた。
 寝ておかなければならない妹まで、自分の心配をしてお見舞いに来てくれるなんて予想もしていなかった。

『お兄さま!今日はフィアが看病するからね!』
『ウ、ウーム……しかし』
『フィアがするの!ジェラールと一緒にお兄さまの食べられるようなモノ買って来たんだから!』

 妹は本当に自分を心配して、病弱にもかかわらずジェラールと一緒に蜜柑ゼリーを買って来てくれた。

 あの時の蜜柑ゼリー。

 美味しかった。
 本当に美味しかった。

 
「ええ…ええ…伝えておくわぁ。じゃあ」
 
 
 ジェラールが電話を切ってスケルちゃんに受話器を渡す。
 歯を鳴らしながらスケルちゃんは受話器を持って寝室から出て行った。電話を置きに行くついでに何か作ってくれるらしい。
 そんなスケルちゃんに感謝しつつ、ネイリーはジェラールに訊ねる。

「フィアも嬉しく思ってくれただろうか」
「え?」

 ジェラールは目を見開き聞き直したが、ネイリーは「やっぱりなんでもない」とはにかむ。
 

「フウム。明日、あかりくん達が来るのなら少し寝ようかな。スケルくんが来たら起こしてくれないかね?」

「ええ。いいわぁ。それまでジェラール、傍にいてあげるから」


 ウットリとジェラールが自分を見つめてくる。
 その視線を避けながらも、朦朧とする意識の中でネイリーは最愛の妹を想う。


 今、自分が誰かに心配され看病してくれていることに嬉を感じるように、妹もまた嬉を感じてくれただろうか。
 そうだったならば嬉しい。
 
 大きな大きな瑠璃色の瞳、柔らかな萌黄色の髪。
 あどけない可愛らしい最愛の妹の顔を思い浮かべながら、ネイリーは目を閉じた。

 
 風邪をひいて皆に迷惑を掛けたし、皆の大騒ぎに疲労を感じたけれど。
 皆が皆、心配してくれたことに感謝したい。
  
 明日、皆がお見舞いにやって来てくれたら笑顔で薔薇を渡そう。
 今回迷惑を掛けたことに対しての詫び、そして感謝の意を籠めて沢山の薔薇を。

 特に冬斗には世話になったし貸しを作ったのだ。沢山渡そう。沢山贈ろう。


 身体はまだ睡眠を欲していたようで、睡魔は直ぐやってくる。
 

 遠のく意識の中でジェラールが「グーテ・ナハト」と言ってくれたような気がした。
 


 End



2008.11.04


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あきゅろす。
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