8-13
見送る視線を背に受けながら、冬斗は応接室に入る。
咳き込むネイリーは「参った参った」と、応接室の扉を閉めながら苦笑いを浮かべた。
「こんな大騒動になるとは……ゲッホゲホ、すまないな。冬斗」
「貸し一つっすよ」
「フウム。そうだな。今度その貸しを返すとしよう…ゲッホゲホ……友情の詩を書いてくるぞ」
それは要らない。
薔薇の方がまだ嬉しい。
心の中でそう思いながら、冬斗はふと気付く。
どうやって血を飲むのだろうか。人間から直接飲むと言っていたけれど。
冬斗の疑問にネイリーはニッコリ微笑む。
刹那、ネイリーの姿が視界から消えた。
何処に行った?と冬斗が驚愕していると、後ろから鋭い痛みを感じた。
噛み付かれていると理解する前に冬斗は大きく悲鳴を上げた。
「イデデデデェエエー!せ、先輩ッ、不意打ちですって!」
返答はない。
後ろから血を吸われている音が聞こえてくる。
ある程度血を飲んで満足したのか、ネイリーは冬斗の首筋から顔を上げる。「イテェ」首筋を押さえる冬斗に、ネイリーは謝罪した。
振り返ってネイリーの方を見れば、やや血色が悪くなっているような気がする。
「すまない。菜月の時のように泣かれたら困るから、さっさとヤラせてもらったのだよ」
「一言、言葉が欲しかったんっすけど」
不満そうに冬斗が首筋を擦る。
掌を見れば軽く血が付いている。
きっと首筋の周りにも血が付いているに違いない。擦ったから薄っすらと伸びてはいると思うが。
「ケッホケホ……いやほんと、だいぶん楽になった。ダンケ、冬斗」
「なら良かったっすけど。でもネイリー先輩」
「しかし……何故だろうか、急に…」
「先輩?どうしたんすッ、先輩?!」
ネイリーの身体がグラッとよろめき、足元が床から離れて冬斗の方に倒れ込む。
倒れてくるネイリーの身体を受け止めながら冬斗は名を呼ぶ。
全く反応がないことから、ネイリーは気を失っているようだ。
「貸し二つっすよ」軽く溜息をついて冬斗はワザと大きな声で言う。
無論、ネイリーは聞いていない為、冬斗の独り言として言葉が辺りに散った。
冬斗は再び軽く溜息をつきネイリーの身体を運ぶ為、背にネイリーの身体を乗せた。
「いっつもナルシーでキザで大人で余裕で……そんな先輩も、こんな風に倒れるんっすね」
そんな不甲斐無い姿を自分に見せてくれたことを考慮して、貸しは一つにしてやろう。
「……でもやっぱ、俺はアンタに負けてるんですよね」
何に対して?
そう訊ねられたら、自分は全部だと即答するだろう。
微苦笑して冬斗は皆のところに戻るため、応接室を静かに出た。
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