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「風邪で振り回された俺って……」

  
 熱い紅茶を一口啜る。
 今日の紅茶はいつもの紅茶より味が濃いような気がする。
 それだけお茶の葉を煮出したのか、それとも自分の舌が異常なまでに味を感じてしまうのか。

 とにかく紅茶の味がよく分かる。
 ホッと息をついて冬斗は、カウンターに肘を置いた。
 
 
「つまりネイリー先輩は風邪で、人間の血が必要だから俺を呼び出した…と?」
 


 確認するように皆の方を見れば、皆は深々と頷いた。


 ネイリーが命の危機というのは大袈裟な表現で、本当はタチの悪い風邪に付き纏われているだけ。
 そう説明してくれる風花の言葉に冬斗はぐったりと項垂れた。


 だったらそう説明してくれないだろうか。


 こっちは苦労して苦労して苦労して、やっとのことまで最終ステージ手前のボスまで辿り着けたというのに、あかりの連絡によってデータをセーブせず大慌てで来たのだ。


 遠目を作る冬斗は「俺の今日一日の努力と苦労って」と深く溜息をついた。

 
 あかりは大きく両手を合わせて詫びる。
 冬斗しかいなかったのだ。ネイリーの血の飲めそうな人間って。
 血の飲めそうな人間候補に入っている菜月は……まだグズグズと泣いて風花に慰めてもらってるし。
 女性は噛み付けない!という理由で、自分も駄目だし。
 
 大きく溜息をついて肩を落とす冬斗に、冷静を取り戻したジェラールも「ごめんねん」と謝った。
 「べついいっすよ。もう」冬斗は諦めたようにまた一つ溜息をついた。 


「で、ネイリー先輩は大丈夫なんですか?」

「……フウム、何故だろうか。今日、此処に来てから風邪が酷くなった気がするのだよ」



 あんな一騒動があったら誰だって風邪を悪化させるというものだ。


 心底ネイリーに同情しながら顔色を窺う。
 ネイリーの顔色、本当に健康そのものだ。血色が良いし健康的そう。
 だけど吸血鬼にとってこれが具合が悪い象徴なのだと言われたら、冬斗もネイリーの体調面を心配してしまう。

「どうしても、人間から直接血を貰わないとイケないのだよ。冬斗、ゲッホゲホ…だから少しだけ貰って良いかね?」
「此処まで来て駄目っつったら、俺、ジェラール先輩に殺される気がしますけど」
「やだぁーん!冬斗を殺すわけないじゃないのん!」


 いや、先程、菜月を殺そうとしたのだが。

 なんて口が裂けてもツッコめないが、身体をくねらせているジェラールと呆れている冬斗以外の者が心の中で思った。

 
「ううぅぅ……お、俺のがわりっ、ふゆどざんっ、おね、おねッ…俺ッ、なざげない!」
「あーホラホラ。泣くなってダーリン。ダーリンは頑張ったって」
「うぇっ、ら、ら、らっでぇ〜!」
「分かったっすから、分かったっすから。菜月先輩の分まで、俺、頑張らせてもらいますよ」

 グズグズ泣いている菜月を宥め冬斗は承諾した。
 するとジェラールが目を輝かせて、咳き込むネイリーに「良かったわねん!」と微笑む。

 たった血を貰うだけでこの大騒動。
 素直に良かったとネイリーは思えず空笑いした。
 ネイリーは人目があると、どうしても血が飲めないと言う為、冬斗と共に応接室に移動しようとダルそうに腰を上げた。

 本当に辛いようで立ち上がるのもシンドそうだ。
 
「大丈夫ですか?ネイリーさん」
「フウム……どうにか大丈夫さ」

 あかりがネイリーの具合を心配している。
 本気で心配しているあかりに、冬斗は頭を掻いて「さっさとやろうぜ」と急かした。
 具合が悪いネイリーに思うことは、これはさっさと血を飲んで寝てもらわないとイケない。その思いが強かった。



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