8-2
2人の血がダメだったら自分の血しかないではないか。
あかりはネイリーに「どうぞ」と自分を指差す。
「私、人間ですので飲めますでしょう?飲んでもイイですよ」
「ゴッホゴホ…あかりくん。いや、しかし」
「風邪長引かせるのキツイですし、早く治りたいでしょう?あ、何処から飲みます?やっぱり首筋に噛み付いてですか?」
「そ、そりゃ…首筋に噛み付いてなのだが」
ジッとネイリーはあかりを見つめる。
あかりは「ドンと来いです!」と胸を叩くが、ネイリーは涙ぐんで「無理だ」とカウンターに顔を伏せた。
「僕にはデキない!あかりくんに噛み付くなんてッ、絶対に無理だ!あかりくんに噛み付くぐらいなら、僕は風邪で魘されていた方がマシだッ、ゲッホゲホ」
女性を傷付けるのはフェアじゃないらしい。
彼らしいといえば彼らしいが、血を飲まなければ苦しいだろうに。
困ったなぁ…と、あかりが言えば、ネイリーは咳き込みながら「人間ならもう1人いるから」と笑って見せた。
それは買い物に行っている菜月のことだ。
菜月なら人間だし男だ。普通に噛み付ける、と何だか男女の温度差を感じる発言をする。
風花は「無理じゃないかなぁ」と菜月の性格上を考えて唸った。
ジェラールは首を捻ってどうしてか訊ねる。
「いや、だってさ。菜月のヤツ」
「何かあるのかしら?」
「こういう系になると、たぶん……あたしの予想だと」
―――チリン、チリン。
扉に付けられている鈴が軽快に鳴る。
菜月が帰って来たようだ。
買い物袋を提げて帰って来た菜月は、ネイリーとジェラールの姿を見て「来てたんですか」と微笑してくる。
「丁度良かった。今日、俺、駅前の美味しいパンを買ってきたんですよ。皆さんで食べましょう。今、お茶を淹れますね」
「ちょっとその前に話があるのだが。菜月」
「え?俺にですか?って、あれ?ネイリーさん、顔色良いですね。どうかしたんですか?」
ネイリーはチョイチョイと菜月を手招きする。
菜月は皆の顔を窺う。
何故か、皆、自分に注目している。何か悪いことでもしたのだろうか?
些か不安を感じながらネイリーに歩み寄ると、ネイリーは菜月の両肩に手を置いた。
「これは親友の頼みッ、ゲッホゲホだと思って聞いてくれ」
「俺とネイリーさん。いつから親友……それは置いておいて、俺に頼みですか?」
自分に出来ることなのかと訊ねれば、ネイリーは深々と頷いて目を輝かせた。
「菜月の血。分けておくれ!」
菜月はネイリーの言葉に理解できず固まる。
血?誰の?何を?え?どうして俺の血を欲しいって。
というか、目の前にいる人は吸血鬼。俺は人間。吸血鬼は人間の血を吸う。イコールそれはホラー。
血の気がなくなり菜月は涙ぐんだ。
「イヤダアアアアアアアアアア!」
菜月の悲鳴は“何でも屋”の隅々にまで行き渡った。
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