＊敵わないや（菜月）
菜月は結局のところ風花に甘い、そんなお話。
* *
何の前触れも無くあかりさんから「菜月くんって風花さんに敷かれてますよね？」って今日言われた。
それを聞いた風花が、あかりさんの隣で笑い声を上げていた。
確かに俺って世の中のカップルと比べたら、恋人に敷かれている部類に入るとは思う。
素直に「そうだね」って返事を返したら、あかりさんから「喧嘩した時とか負けるでしょう？」って笑いながら聞かれた。
というか、あかりさんの想像の中では俺達は喧嘩しなさそうなイメージらしい。
全面的にそれは否定させてもらった。
3年の付き合いになるけど一度も喧嘩したことないなんて無いし、寧ろ一緒に住み始めた時の俺と風花は喧嘩ばっかりしてたと思う。
喧嘩した時の俺達の勝敗は……どーだろ。
風花は「あたしが勝つね」って、胸張って言ってるけど。
どっちが勝ってどっちが負ける、なんて実際は無いと俺は思ってるんだ。
だって喧嘩した時の俺達、全く口利かないし、目だって合わさないし、だからって殴り合いの喧嘩をするってわけでもないし。（さすがに殴り合いの喧嘩は俺が負けちゃうし）
素直にどっちかが謝る、なんてことも無いし。
喧嘩したら俺が折れて謝るって思われがちだけど、本気で喧嘩した時は俺も意地張って謝らないし。風花も意地張って謝らないし。
結局、どっちも謝らないし。
最初の頃は謝っていたかもしれないけど、今は喧嘩しても謝ることなんて滅多にないかも。時と場合によるけど。喧嘩したら、その日は全く口も利かない。お互いに見ない。
でも、翌日になったら自然と話せてる方が多い。
だから勝ち負け、結局つかないんだよね。
風花がトイレに立った間に、あかりさんにコッソリ言えば、あかりさんが笑った。
「姉妹喧嘩と一緒ですね。私も、妹と喧嘩したらそうなりますもん」
そっかぁ。
あかりさんところも、同じような感じなんだ。
考えてみたら本気で喧嘩しても、心の底から嫌いになれないから、だからこそデキる遣り取りなんだろうなぁ。
俺がウンウンと頷いて納得していたら、あかりさんが「でも、菜月くんの方が負けることが多いと思いますよ」と笑ってきた。
……どうして？
首を傾げたら、あかりさんがそっと耳打ちしてきた。
「あー！ あたしがトイレ行ってる間に、あんた達、親密になって何してるわけ？！」
「誤解しないで下さい！」
戻って来た風花がギャンギャン騒いでいる。
あかりさんが「違います！」って反論して、2人は口喧嘩し始めた。いつもの光景をボンヤリ眺めながら、俺はあかりさんの意見に同感してしまう。
俺の方が負ける時の方が多いかも。
だって、風花が喧嘩している最中に傷付いた顔をしたら……俺、やっぱり折れちゃうだろうし。泣かせたら罪悪感でいっぱいになるし。
あかりさんの言うように、風花の弱々しい顔を見たら負けるよ。きっと。
そう考えれば世の中のカップルさま達だって、彼氏が負けることの方が多いと思うけどなぁ。
チラッと風花を一瞥して俺は苦笑いをしてしまった。うん……やっぱり、俺、風花に敷かれてるのかな。
いつだって風花には敵わないや。
End
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