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Others
親衛隊員曰く。


「ごめんなさい皆さん。オレ、今日で親衛隊長、止めます」

 親衛隊の定例報告会。
 クラスごとに二名ずつの代表者しか集めていないというのに、人で溢れた会議室は、水を打ったようにシンと静まり返った。
 天使と見紛う可憐な容姿の美少年から、凛々しいイケメン。大人しい文学少年から、金髪ピアスの不良。性格も外見もてんでまとまりのない彼等だが、ぽかんと口をあけた姿は、良く似ている。

「はぁっ!?」

 一番先に反応したのは、隣に座る副隊長、赤羽。
 一つ年上の凛とした美少年。天使の輪を描く黒髪と目尻の吊り上った大きな目が特徴の彼こそが、本当は親衛隊隊長。しかしやる気に溢れるオレを見込んで、席を譲ってくれた。

 そんな彼には、大変申し訳ないと思う。が、自分の心は偽れない。

「何言ってんの!?青山、お前、何言ってんの!?」

 美少年は、オレの胸倉を掴んでガクガクと揺らす。脳がシャッフルされて気持ち悪いから止めて欲しい。

「ちょ、赤羽、青山が死んじゃうから止めてよ!」

「ドウドウ、副隊長、落ち着いて」

「うっさい!!」

 一人が暴れる赤羽を羽交い絞めし、一人がオレ達の間へと入る。細身の美少年は歯を剥き、獣のような威嚇をした。
 怖い、怖いっす。赤羽さん。

 咳をするオレの背を、別の隊員が擦ってくれた。

「大丈夫っすか、隊長」

「ああ、うん。まあ一応」

 苦笑いを浮かべ、掠れた声で呟いた。

「つか、隊長。理由聞いて良いっすか?」

「そうだよ青山!!理由も聞かずに認められない!!」

「聞いても認める気、なさそうですねー」

「うるせええええ!!」

 ああ、赤羽さんのガラがどんどん悪くなってる。
 雄叫びをあげる美少年を眺めながら、オレは小さく息を吐き出した。

「単純に、会長を好きだと思えなくなったのが理由の一つです」

「…………」

 彼等は再び、絶句した。
 腕を振り回していた赤羽さんも、宥めていた隊員も、羽交い絞めしていた隊員も、周囲でハラハラと見守っていた隊員も動きを止めた。皆が皆、同じ顔でオレを見る。

 さっきより長い沈黙が落ちた。
 大きな目を見開いた赤羽さんは、唇を数度開閉し、掠れそうな声で呟く。

「……え、今更?」

 今更?
 今更といったか、この人は。

 唖然とした赤羽さんの言葉に、今度はオレが唖然とする番だ。

「今更って何です」

「いや、今更は今更でしょ。あの人が駄目になったの、いつの話だと思ってんのさ」

 三か月前くらいですかね。
 そう普通に答えようとしてしまった。危ない。

 何でこの人、会長に幻滅したという部分じゃなく、時期に拘ってんの。

「……その言い方だと、赤羽副隊長は、もう大分前から会長に幻滅しているように聞こえますよ」

「当たり前でしょ」

 何言ってんのお前、と呆れた目を向けられ、オレの戸惑いは加速する。

 えええええええ。
 オレがおかしいの?これ、オレがおかしいのか??

「仕事もしないで男遊びに現を抜かす暴君を見限らずに、誰を見限れってのさ」

「……」

 歯に衣着せぬとは、正にこの事。
 あまりにも明け透けな言い方に、もうちょっとオブラートに包めなかったのかなあと、ゲンナリせずにはいられない。

 しかもここで問題がもう一つ。
 誰一人として、反論しないのは何でだ。赤羽さんが怖いってのもあるだろうが、それ以前に、皆同意するように頷いている。

「え、じゃあ逆に聞きたいんですけど、何で皆、今まで親衛隊辞めなかったんです?」

 見限っているなら、さっさと隊を抜ければいい。
 別に罰則や制裁なんてないし、入るのも辞めるのも緩いと評判(?)の親衛隊だ。

「そりゃ、アンタがいるからだけど」

「……オレ!?」

 何でここでオレ登場?
 嘘でしょ、と周囲を見渡すが、否定はしてもらえなかった。背中を擦ってくれていた爽やかな彼は、オレの戸惑う顔を見て、苦笑いを浮かべた。

「アンタが何仕出かすか楽しみで、オレはここにいるんですけど」

「仕出かすって……」

 反論しようとするが、どうにも上手い言葉が出て来ない。
 口ごもるオレを見て、赤羽さんは呆れ顔でため息を吐き出した。

「そもそも青山さあ、親衛隊の半分は、アンタが引き入れたんだって分かってる?」

「は?」

「やっぱ分かってなかったんだ」

「マジですか。青山隊長」

「じゃあ、明らかにヤンチャしてそうなヤンキー君も、勉強にしか興味ありませんって眼鏡君も、ボールが友達って爽やかスポーツマンも、全員が会長ラブ!だと思ってたんですかー?」

「うん」

「マジでか」

 確かにうちの親衛隊、幅広いなーとは思ってたけど。
 そう素直に吐露すれば、室内にいくつものため息が零された。

「イベントの度に、アンタが適当に引っ張ってくるんでしょうが。本当なら反感買って終りそうなのに、青山隊長ってば、人の能力見極めて仕事配分すんのが神がかり的に上手いから、皆のせられて仲良くなってくんだよね」

 言われて思い出す。
 イベントがあると、大抵人手が足りないので、暇そうにしている奴等を引き込んでた。
 出来ない、面倒臭いと大体が逃げようとする。しかし、そんな奴こそ、抜きんでた能力を持っている事が多い。
 限定的な才能だって、才能は才能だ。向き不向きを理解した上での手伝いを申し出れば、殆どの奴等が断らず手伝ってくれた。

「アンタが隊長やってんなら、親衛隊ってのも楽しそうだって理由で入隊者が続出したんだよ。今更、アンタが抜けるとか納得するはずないでしょうが」

 親衛隊長を辞めると言ったら、引き留められるとは思っていた。
 しかしまさか、そんな理由だとは誰が思うだろうか。

「もう会長の事は、ちょっと目障りな置物だと思いましょうよ」

「そうそう。気にしなきゃいいんですよ」

「いやいやいや。ちょっと待って下さい」

 そんな雑な宥め方、あってたまるか。

「そもそも、オレが辞める一番の理由、まだ言ってないです」

「一番の理由?他にもあるの?」

 羽交い絞めを解かれた赤羽さんは、肩を回しながら不思議そうな顔でオレを見る。小首を傾げる様は可愛らしいが、さっきの暴れ方を思い出せば頭が冷えた。
 そういやこの人、可憐なバンビではなくゴリラだった。

「オレ、会長をリコールするつもりです」

「え」

「そんでオレが、会長に立候補します」

 裏切り者になるのだと、胸を張って宣言する。
 被害者ぶるつもりも、悪人ぶるつもりもない。オレはオレの凝り固まった価値観の中で、進みたいと思った道を進む。

 極端だと皆に言われても、オレは生き方を改めるつもりはない。慈悲深い聖人君子としての生き方を選んだら、もうそれはオレではないと思う。

 憧れた人がとことんまで堕ちたのなら、オレはそれを踏み越えて行く。

「一人一回ずつなら、ビンタ受けます。ただし二回目からは避けるし反撃もしますんで、その辺りは踏まえてお願いします」

 ぺこりと頭を下げる。
 本日何度目かになる沈黙は、数秒後に盛大な騒ぎを連れて来た。

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あきゅろす。
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