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親衛隊長曰く。

注意!!


・会長と親衛隊長の、泥沼ラブストーリーだと思って読むと、痛い目を見ます。
・会長はしょうもない。でも主人公もしょうもない。
・正義はどちらにもありません。
・恋愛要素はうっすいです。


 以上の事を踏まえ、大丈夫だと思われる方は読んで下さると嬉しいです。








 オレの性質は、一言でいうと『極端』。これに尽きる。

 一度凝り始めると際限がなく、極めなければ気が済まない。

 幼稚園では泥団子。周囲の子供達が、キャッキャとはしゃぎながら泥団子を制作し、おままごとを繰り広げていた時、オレは真球を作るのに没頭していた。
 丸に近付けた泥団子に、細かな砂をかけては擦る、かけては擦る、を繰り返す。
 出来上がった品は宝石のように美しい出来で、先生達にオオウケした。うちの幼稚園には小さな職人さんがいると、話題にもなったらしい。

 小学校の時は、紙飛行機。
 始めてみれば、これがまた色々と奥が深い。
長く飛ぶか、遠くまで飛ぶか。どちらを目指すかによって、作り方も変わる。
 それからデザインも大事。シンプルイズベストという言葉があるが、格好良いにこしたことはない。戦闘機のデザインは男心をくすぐるらしく、うちのクラスではちょっとしたブームになる。
発端であるオレが取り仕切り、クラスの男子一丸となって、研究を重ねた。角度、空気抵抗、重さ等、微細に記されたデータと出来上がった紙飛行機の飛距離を見て、たまたま訪れていた大学教授は、しきりに感心していた。
科学者の卵とオレ達を呼び、激励してくれたっけ。

 中学校の時は、陣地取りゲーム。
 グー○ルさんのイン○レスに触発された訳では無く、三国志カッケー!!というアホ丸出しの理由だ。
 小学校の時にやった陣地取りゲームではつまらないと、独自にルールを決めているうちに、だんだんと人数が増え、クラス対抗戦となってしまったのは、何が悪かったんだろうか。
 先生や他の学年に迷惑をかけてはいけないと気を配っていたにも関わらず、流行りの波は全学年へと広まり、最後には先生まで参加。
 翌年からは年間行事に組み込まれていた。

 高校では何に嵌るんだろうかと、同中の奴等がワクワクと見守る中、オレは運命の出会いを果たす事となる。

 入学式に檀上で挨拶する生徒会長の姿に、一目惚れをした。
 凛とした佇まいと、漂うカリスマオーラ。彼の下で働きたいと願ったオレは、親衛隊へと入隊。
 約一年をかけて上り詰め、校内最大派閥である生徒会長親衛隊の隊長となった。

 生徒会長である目黒様は、オレの想像以上に素晴らしい人だ。
 眉目秀麗、成績優秀、運動神経も抜群。にも拘らず驕ったところもなく、勤勉。人望も厚く、公明正大。
 こんなにも完璧な人がいるのかと感動し、彼の役に立つように、優秀な部下となる事が次なるオレの目標……だった。






「お前にオレの何が分かる」

 彼は冷めた目でオレを一瞥し、吐き捨てた。

 人気のない放課後の資料室。
 野球部の掛け声を遠く聞きながら、オレは彼を見上げる。

 真っ直ぐな黒髪に、薄いグレーの瞳。差し込むオレンジ色の西日が彫の深い目鼻立ちに陰影を作る。
異国の血を感じさせる端正な美貌は、高校生とは思えない男の色気をはらんでいた。

「目黒様……」

 呆然としたオレは、小さな声で彼を呼ぶ。すると不快だと示すように、眉間のシワが深くなった。

「今まで世話になった分、目を瞑ってやっていたが、もう限界だ。勝手な理想を押し付けた挙句、オレの大切な人にまで害を及ぼすなど許せる筈がない」

「え、害って、何のことですか」

「白を切るつもりか」

 事の成り行きに付いて行けず、戸惑うオレを目黒様は睥睨する。
 つい数か月前までは、親しげに目を細めて、暖かな眼差しを向けてくれていた人と同一人物とは思えない。

「白金に嫌がらせをしているそうじゃないか。オレに相応しくないから身を引けと、お前に脅されたと彼は泣いていたぞ」

「脅し……確かに、注意はしましたけど、脅してなんかいません」

「注意、ね」

 厭味ったらしく繰り返す様子から察するに、全く信じてもらえていない。
 泣きそうな気持ちを抑え、口を引き結ぶ。腹に力を込め、背筋を伸ばす。俯いて同情心を煽るようなみっともない真似だけは、したくなかった。

「……目黒様は、白金さんが影で皆に何と呼ばれているか、知っていますか」

「知らん。嫉妬に狂った奴等の陰口なぞ、聞くに堪えん」

 煩わしいと言いたげに顔を歪め、蠅でも払うかのような仕草で彼は手を振った。

「傾城(ケイセイ)です」

「……何?」

 鋭い目で、一瞥される。しかし怯まずに睨み返す。

「傾城と呼ばれているんですよ。貴方の大切な人は、貴方のせいで」

 一言一言、区切って言った。
 目黒様の顔が、どんどんと険しくなる。

「ふざけるな……!!」

 怒気を孕む彼とは真逆に、オレの心は冷えていった。

 白金は、オレこと青山と同じく、二年の男子生徒だ。
 楚々とした美貌と色素の薄い髪や瞳、それから華奢な体。儚げな風情の美少年である彼は、入学当初から注目の的であった。
 大人しい彼は、友達らしい友達もおらず、よく一人で図書館にいる姿を見かけた。

 そんな彼と目黒様の間に、何があったのかは知らない。

 けれどいつの間にか親しくなっていった二人の恋は、何も初めから、全生徒に反対されていた訳ではない。

 まず最初の異変は、会長の書類が滞り始めた事だ。
 目黒様の仕事量は膨大だ。故に、期限間近になるパターンは少なくない。だが彼は、矜持が高く、自分の休みを削ってまで仕事をこなす。一度だって、期限を破った事はなかった。

 しかし二人が恋仲となる少し前から、会長の執務机に書類の山が築かれるようになり、念のためチェックをしてみたら、期限の切れた書類が沢山。
 
 続いての異変は、会長が親衛隊を遠ざけ始めた事。
 うちの親衛隊は、男子校特融のノリで会長をアイドル扱いする隊員はいたが、基本良い子。仕事の手伝いを率先してやり、イベントでは、役員でもないのに裏方をかってでる働き者ばかりだ。
 会長も理解しているからこそ、親しげに接してくれているとばかり思っていた。

 それなのに急に態度は変わった。汚らわしいといわんばかりの視線や表情に、こちらとしては戸惑うしかない。

 更には白金を特別扱いし、役員でもないのに、特権を行使する。

 食堂の二階席は、生徒会役員しか立ち入り出来ない。それは格差というより、多忙な役員が優先的に食事をとれるように。それから人気者である彼らが、落ち着いて食事が出来る様にという理由がちゃんとある。
 それなのに最近の二階席は、会長と白金の二人だけの特等席。

 本好きの白金のために、彼の好きな本が、優先的に図書館に並ぶ。
 
 あまりにも目に余ると、白金を呼び出した生徒は停学をくらった。
 暴力は奮っていないし、一対一で話し合ったにもかかわらず、だ。

 これはもう、傾城と呼ばれても仕方ないだろう。
 我が校の誇る敏腕生徒会長は、恋を知り、堕ちた。諌める部下を切り捨て、堕落し、欲に捕らわれている。
 今の彼は、寵姫に惑わされて国を傾ける愚帝そのもの。

 これはもう、オレが惚れた人じゃない。

「ふざけてるのは、貴方でしょう」

「……貴様」

 唸る会長を冷えた目で見据えながら、オレは思う。


 それなら、とっとと引導を渡してやるのが、優秀な部下の最後の務めってやつですかね、と。


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