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Others
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「ちょ、慎さん!?」

「場所移すぞ。大人しくしていろ」


 慌てるオレと違い、慎さんは冷静にそう告げる。
 場所を移動する事に異論はないけれど、格好が不味い。
 さして小柄でもない高校生男子が、男に抱き上げられているなんて、痛々しすぎるだろう。直視するのを憚られる光景だ。
 顔を真っ赤にして下ろしてくれと頼むが、慎さんは聞き入れる気はないらしく、片手で家の鍵をロックして、車庫へ向かった。


「お前、気が動転して気付いてないようだが、靴履いてねぇぞ」

「え」


 言われて見下ろしてみれば、オレの足の装備品は、汚れた靴下のみ。
 靴を履く事さえ頭から抜け落ちる位、混乱していたんだと、今更気付いた。

 慎さんは車のドアを開け、ナビ席にオレを押し込む。
 高そうな車に、汚れた足で乗り込む事に抵抗があり、マットから足を浮かす。運転席に乗り込んだ慎さんは、そんなオレを呆れ顔で見ると、ズポ、とオレの足から靴下を抜き取った。


「慎さ……」

「話は場所変えてから聞く」


 慎さんは、オレの言葉を遮った。ぼんやりと座っているだけのオレに、甲斐甲斐しくシートベルトをしてくれる。
 車庫に移動したのは、車の中で話を聞いてくれる為かと勝手に思っていたから、オレは驚いた。
 一体何処へ行くつもりなんだろう。

 車が走り出し、オレはおずおずと口を開いた。


「慎さん、何処へ行くんですか?」

「会社」

「えっ?」


 簡潔な答えに、オレは更に混乱する。
 適当にドライブ、もしくは公園とか駐車場とか、その辺りを予想していた。

 何で慎さんの会社に行くんだろう。
 その疑問を口にする前に、慎さんは説明をしてくれた。


「あんな怯えているお前を、檀の元に帰す程、オレは鬼畜じゃねぇぞ」

「慎さん……」


 確かに、泊めてもらえたら有難いと思う。もし無理でも、友達を頼るつもりだった。
 あんな事があった後に、他の誰もいない自宅に帰るなんて、絶対嫌だ。


「泊めるにしても、すぐ隣の家じゃ落ち着かねぇだろ。オレとしても、極力今のお前を檀に近付けたくない」


 信号機が赤になり、停車すると、慎さんはオレを見た。
 スルリ、と大きな手が、頬を掠めるように一撫でする。

 思わず息を詰めたオレに苦笑してから、慎さんは視線を前に戻した。ゆっくりと車が発進する。


「会社の上のフロアは、オレの自室になっている。……といっても、仮眠程度にしか使わねぇから、物も少ないし不便かもしれないが。まぁその辺りは我慢しろ」


 普通の男子高校生であるオレには、いまいち規模が理解出来ない。
 慎さんの言葉を真に受け、ホテルのシングルをイメージしていたオレは、着いた部屋を見て唖然とする他なかった。

 そういや、上のフロアって言っていた。
 フロアの一角にある一部屋って意味じゃなく、1フロアがまるっと部屋って意味だったんですね……。


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