Others
13
「ちょ、慎さん!?」
「場所移すぞ。大人しくしていろ」
慌てるオレと違い、慎さんは冷静にそう告げる。
場所を移動する事に異論はないけれど、格好が不味い。
さして小柄でもない高校生男子が、男に抱き上げられているなんて、痛々しすぎるだろう。直視するのを憚られる光景だ。
顔を真っ赤にして下ろしてくれと頼むが、慎さんは聞き入れる気はないらしく、片手で家の鍵をロックして、車庫へ向かった。
「お前、気が動転して気付いてないようだが、靴履いてねぇぞ」
「え」
言われて見下ろしてみれば、オレの足の装備品は、汚れた靴下のみ。
靴を履く事さえ頭から抜け落ちる位、混乱していたんだと、今更気付いた。
慎さんは車のドアを開け、ナビ席にオレを押し込む。
高そうな車に、汚れた足で乗り込む事に抵抗があり、マットから足を浮かす。運転席に乗り込んだ慎さんは、そんなオレを呆れ顔で見ると、ズポ、とオレの足から靴下を抜き取った。
「慎さ……」
「話は場所変えてから聞く」
慎さんは、オレの言葉を遮った。ぼんやりと座っているだけのオレに、甲斐甲斐しくシートベルトをしてくれる。
車庫に移動したのは、車の中で話を聞いてくれる為かと勝手に思っていたから、オレは驚いた。
一体何処へ行くつもりなんだろう。
車が走り出し、オレはおずおずと口を開いた。
「慎さん、何処へ行くんですか?」
「会社」
「えっ?」
簡潔な答えに、オレは更に混乱する。
適当にドライブ、もしくは公園とか駐車場とか、その辺りを予想していた。
何で慎さんの会社に行くんだろう。
その疑問を口にする前に、慎さんは説明をしてくれた。
「あんな怯えているお前を、檀の元に帰す程、オレは鬼畜じゃねぇぞ」
「慎さん……」
確かに、泊めてもらえたら有難いと思う。もし無理でも、友達を頼るつもりだった。
あんな事があった後に、他の誰もいない自宅に帰るなんて、絶対嫌だ。
「泊めるにしても、すぐ隣の家じゃ落ち着かねぇだろ。オレとしても、極力今のお前を檀に近付けたくない」
信号機が赤になり、停車すると、慎さんはオレを見た。
スルリ、と大きな手が、頬を掠めるように一撫でする。
思わず息を詰めたオレに苦笑してから、慎さんは視線を前に戻した。ゆっくりと車が発進する。
「会社の上のフロアは、オレの自室になっている。……といっても、仮眠程度にしか使わねぇから、物も少ないし不便かもしれないが。まぁその辺りは我慢しろ」
普通の男子高校生であるオレには、いまいち規模が理解出来ない。
慎さんの言葉を真に受け、ホテルのシングルをイメージしていたオレは、着いた部屋を見て唖然とする他なかった。
そういや、上のフロアって言っていた。
フロアの一角にある一部屋って意味じゃなく、1フロアがまるっと部屋って意味だったんですね……。
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