Others
12
「どうした、忘れ物か?……って、お前……」
手を取り立ち上がらせてくれた慎さんは、間近で覗き込んだオレの顔を見るなり、表情を一転させる。
「何があった……!?」
鋭い瞳を瞠り、彼はオレの肩を掴んだ。
いつも余裕な慎さんの焦った顔に、オレも目を丸くする。
「う、ううん……なにも」
動揺して、条件反射みたいに否定した。俯いて視線を逸らそうとしたけれど、頬を両側から挟まれて、真正面から瞳を合わせられる。
至近距離にある慎さんの表情は、真剣そのもので、誤魔化す言葉に詰まった。
「何でもない訳あるか!」
「っ、」
切羽詰まった顔で怒鳴られ、目を瞠ったままオレは固まる。
慎さんは怒りに吊り上げていた眉を寄せ、衝動のままに吐き出そうとしていた言葉を一旦飲み込んだ。
彼は、感情を制御するように目を伏せる。数秒の沈黙の後、ゆっくりと目を開けた。
「そんな真っ青な顔で震えて……何でもない訳がねぇだろうが」
オレのカタカタと震える肩を、慎さんの大きな手が抱き寄せる。
怯えさせない為に極力穏やかな声で、彼はオレに語りかけた。
「慎さん……」
「何があった。何がお前を苦しめた?」
「……」
彼に嘘は吐きたくない。けれど、あった事をそのまま伝える事も無理だった。
簡単に口にするには、重過ぎる。そしてなにより、オレ自身、未だに何が起こったのか、把握出来ていなかったから。
「……」
言葉に出来ないまま、力なく首を横に振る。
慎さんの真っ直ぐな視線が痛くて、僅かに目を逸らした。
「……檀か」
「っ、」
慎さんは疑問形ではなく、言い切った。
突き付けられた単語に、オレは咄嗟に平静を装えない。跳ねた肩が、全てを物語ってしまったらしく、彼の表情は更に険しくなった。
鋭い瞳が、殺気を孕む。慎さんは苛立たしげに、舌打ちをした。
「クソが」
忌々しく吐き捨てる声とは真逆に、優しく彼はオレを抱き込む。
大きな手が庇ってくれるようで、漸くオレは、詰めていた息を吐き出した。
「うわっ?」
急に視界が高くなる。何事かと見下ろせば、慎さんがオレを抱き上げていた。
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