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Others
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「オレを呼ぶな……今更、近づいて来るなよ」


 どれだけ望んでも追いかけても、振り向きもしなかったくせに、離れようとした途端、手を伸ばして来るなんて酷すぎる。

 ガキだったオレを、拒絶したのはアンタの方だ。
 呼んでも応えなかったのは、アンタの方だろう。

 それなのに、憎まれる事さえ拒むのか。アンタはオレに、何も寄越さないつもりなのか。


「アンタに、触られたくなんてない」

「……」


 吐き捨てるように呟いた。
 息を呑む音がして、檀の表情が強張る。

 合わさっていた視線は逸らされ、檀は瞳を伏せた。
 それを合図に、オレはここから立ち去るべく歩き出す。


「……っ?」


 一歩踏み出したその時、強い力で肩を掴まれ、振り払う間も無く、ぐるりと視界が反転した。
 唐突な事態に、頭が追い付かない。

 何でオレは倒れている?何で兄貴に、組み敷かれているんだ?

 背にはラグの感触。どう転がったのかは覚えていないが、大した衝撃は無かった。痛みも殆どない。
 至近距離にある檀の瞳には、呆然としたオレの顔が映っている。


「あ、にき……?」

「杏」


 低い声が、オレを呼ぶ。酒のにおいが鼻孔をくすぐった。

 酒……?そういえば、机の上にブランデーグラスが置いてあった。
 空だったから気にも留めていなかったが、普段戸棚の奥に仕舞い込まれている物が、外に出ているだけでも珍しい事だ。
 檀は殆ど、酒を飲まないから。

 酔って足が縺れたのだろうか。あまり酒は飲まないとはいえ、かなり強かった筈だが、久しぶりに飲んだのなら、そういう事もあるだろう。

 押しのけようとする気持ちが萎え、代わりにため息が零れ落ちた。
 病人ではないが、コンディションが正常でない人間に乱暴を働くのは憚られる。手を貸すから起き上がって、と声をかけようとした。


「檀、」

「杏……杏、杏」

「……檀?」


 けれど言葉は途中で途切れた。まるで壊れた機械のように、オレの名を繰り返す檀を、訝しみ覗き込む。
 そこにあったのは、暗闇。深淵のような底知れぬ瞳が、怖い程真っ直ぐにオレを見ていた。


「っ……」


 ぞくり、と背筋を冷たい汗が伝う。檀の目には酔いの欠片も見当たらない。
 常軌を逸した危うい光が、ギラついて見えた。


「何処にも行くな。オレの……杏」

「な……」


 正気とは思えない発言に目を見開く。だが次の瞬間、それを遙かに上回る衝撃が、オレを襲った。

 焦点を合わせられない程、間近に檀の顔が迫る。拒絶の言葉を吐こうにも、息ごと声を奪われた。
ひやり、と冷たい感触が唇を覆う。それが檀の唇だと、理解するのに、数秒を要した。

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あきゅろす。
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