Others
09
「……本当だけど」
背凭れに体を預け、やる気なく返事をする。
バレてしまったものは仕方ない。
面倒臭い小言も、適当に流そう。
今回の件は両親どっちとも、オレの味方だし。最終的な決定権は、檀に無い。
言いたいだけ言えよ。
我が家の恥でも負け犬でも、お好きな言い方でどーぞ。
投げやりにそう考えていたが、檀の反応は違うものだった。
「駄目だ」
「……は?」
耳から入って来た言葉を、脳が理解する事を一瞬拒んだ。
聞き流す気満々だったオレは、反応に遅れる。伏せていた目を見開いた。
何の冗談だと、目の前の男をマジマジと見るが、檀の顔は真剣そのものだった。
檀が冗談を言ったのだとしたら、それはそれで驚愕の事態だが。
「何だって?」
笑って流そうとしたが、頬が引き攣る。
聞き返す声も、剣呑なものになったが、取り繕っていられない。
檀は今、なんと言った?
「駄目だ、と言った」
「っ!!」
檀は人の神経を逆なでするかのように、一言一言区切って告げる。
あまりの事に、絶句した。
駄目だと言ったか?止めておけでも、賛成出来ないでもなく、駄目だと。
「笑わせんな。アンタが、オレの人生に口出しできる立場だとでも思ってんの?」
出来るだけ冷静を心掛けて口を開くが、自分のものとは思えない位冷えた声が出た。
怒りを押し殺しすぎて掠れている声は、酷く耳障りだ。
「今までアンタはオレに無関心だっただろう。それが突然、何。オレが独り暮らしする事が、アンタにとってどんな不利益を出したの」
「……兄が弟を心配する事が、そんなにも不思議か」
「……っざけんな!!」
オレは机を乱暴に叩いて立ち上がった。乗っかっていたグラスが落ちて、毛足の長いラグの上をごろりと転がる。
見下ろした檀は驚いた様子もなく、表情同様、感情を窺わせない瞳が、ただオレを映していた。
「何言ってんだよ……!!弟?心配?そんな言葉が信じられると思うのか?」
「杏」
「今更呼ぶなっ!!」
立ち上がり、オレに伸ばして来た手を叩き落とす。触られたくなんてない。
吠えるようなオレの叫びに、檀は少しだけ顔を歪める。
それが痛みを堪えているように見えたのは、きっと見間違いだ。
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