Others 02 兄貴のオレに対する扱いに、子供だった当時のオレは、かなり悩んだ。 一通り、拗ねて捻くれてグレて、最終的に達観した。 あ、このまま行くとオレは、駄目な人間になる、と。 この家に留まり続けると、自分自身の事が、殺したい位嫌いになると理解した。 だったら、家を出ようと決意したオレの行動は速かったと思う。 まず親に電話して、進学せずに就職する事と、バイトの許可を貰った。 放任主義な両親からはすぐにOKを貰い、学校にも許可をとり、その足でバイトの面接へと向かった。 前々から目をつけていたコンビニ店に採用され、もう一つ二つ見つけようと思ったところで、お隣さんに声を掛けられた。 残りはオレが雇ってやる、と。 「こんちわー」 渡されている合鍵を使って、玄関を開ける。 中へ入りながら気の抜けた挨拶をすると、奥の方から低い返事が返ってきた。 今日は家でお仕事中らしい。 仕事部屋の扉をノックする。 「慎さん」 「おう、入れ」 低い声に促されて入室した。 中は15畳くらいある広い空間で、大きな本棚が二つと、機能的な仕事机と革張りの椅子。同じく革張りの高そうなソファーは、主に仮眠用として使われている。 そして机の上におかれたパソコンに向き合うのは、強面な男前だ。 眉間のシワや鋭い眼光で、一般人は直視する事も憚られるような威圧感があるが、基本顔は整っている。 薄いグレーの切れ長な瞳も、厚い唇も、セクシーだとうちの母が褒め称えていた。 ワイルドな容姿に反して、肌の色も髪や瞳の色彩も薄いのだが、英国紳士というよりイタリアンマフィアに見える。 聞いた事はないが、ハーフとかなのかもしれない。 「家事、始めちゃっていい?」 「その前に」 ちょいちょい、と猫を呼び寄せるみたいに、慎さんはオレを手招く。 近付くと、肩が凝ったのジェスチャー。 仕事内容を見てしまわないように、画面を閉じてもらってから、オレは彼の後ろへ回り込んだ。 「相変わらず、凝ってるねー」 「そしてお前は、相変わらず上手ぇな」 がっちがちの筋肉を、力をこめ揉み解すと、いつもより緩い声で、慎さんはそう言った。 誉め言葉に、顔が赤くなるのを感じる。 この人に褒められるのは、どんな小さな事でも凄く嬉しい。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |