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Others
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「西 藍人(ニシ アイト)って、杏ちゃんの兄貴なの!?」

「……」


 オレは無言で、紙パックのジュースにストローを刺す。
 頬杖をついた、やる気なげな姿勢のままソレを啜り、小さく『多分ね』と呟いた。


「テンション低っ!」


 オレの前の席に座った友人は、手に持っていた雑誌をオレの眼前に付き付け、興奮気味に捲し立て始めた。西藍人が、如何に凄い人物なのかを。

 西藍人とは、処女作『境界線』で鮮烈デビューを飾った作家だ。
 出す本は全てベストセラーとなる売れっ子で、ジャンルは歴史小説、ミステリーだけに留まらず、恋愛やSF、と多岐にわたる。

 支持層も幅広く、老若男女問わずの人気だ。
 つい先日も、彼の原作の映画が、海外の映画祭の招待作品となったとか。

 つまりは、本に興味のない人でも知っている、超有名作家な訳だ。

 うちの長男、道明寺 檀は。


「この前出版された悲恋ものも、凄ぇ泣いたし!」

「ああそう」


 ズズ、と最後の悲鳴みたいな音をたてて、中身の無くなったパックジュースが、ベコリとへこむ。
 熱弁を奮う友人の手にソレを握らせて、捨てといてと呟くと、彼は目を丸くした後、肩を落とした。


「何でそんなに興味無いの」


 拗ねた口調の友人は、明るい栗色の髪をガシガシとかき、長いため息をつく。
 チャラい外見に似合わず、読書家の彼にしてみたら、自分の友人の兄が作家というのは、ビッグニュースだったに違いない。

 でもオレにとっては、触れたくない話題だ。
 兄貴の名前も兄貴への賛辞も、出来得る限り聞きたくない。


「オレ、兄貴嫌いだし」


 何が西藍人だ。
 もっと普通な苗字が良かったという憧れか、それは。ご近所さんで密かに『和菓子三兄弟』と呼ばれている事に対する反抗か何かか。


「……そうなの?」


 吐き捨てるみたいに言うと、友人はキョトンと目を丸くした。
 だが何故嫌いなのかと突っ込む事は無く、そっか、なら仕方ないねと、何ともアッサリその話題を取り下げた。


「そんだけ?」

「ん?そんだけだよ」

「……佐藤って変」


 佐藤は、綺麗な顔を緩め、ニコニコと笑う。
 高校に入って仲良くなった佐藤は、未だによく分からない男だと思う。

 たまにテンション高くてウザいが、空気読みスキルが高い為、一緒にいて楽だ。
 近すぎず遠すぎず、一歩分だけ隙間がある関係が心地よい。


「ところで杏ちゃん、今日もバイト?」

「んー。今日は、お隣でバイト」

「そっか。たまにはオレと遊んでね」


 残念そうに言う佐藤には悪いが、オレの体が空く事はほぼ無い。

 高校生になってからのオレは、部活にも入らず、バイト漬けだ。
 勿論理由は、早く独立する為。

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あきゅろす。
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