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プロローグ


『お兄ちゃんなんだから、我慢しなさい!』


 弟妹を持つ方ならば、言われた経験がある方も多いセリフだと思う。

 かくいうオレ、道明寺 杏(ドウミョウジ アン)も、経験がある。
 まぁオレの場合、言うのは両親ではなく、兄だったが。

 長男の檀(ダン)は、オレの10才年上の、現在27歳。
 眉目秀麗、頭脳明晰。幼い頃から神童の呼び声高い天才だったそうだ。

 能面みたいな無表情がデフォルトで、滅多に笑わない檀だが、末っ子の希名(キナ)だけには、滅法甘い。

 同じ弟である筈のオレは、見せつけられた格差に、日々絶望したものだ。
 うちは両親が共働きな為、兄が親代わりみたいなものでもあったから、余計に。

 例えばおやつに、檀がホットケーキを焼いてくれたとする。
 3枚焼いたソレは、2枚が希名のもの。残り一枚を、オレと檀で半分こするのだ。

 確かに希名にとって、檀のホットケーキは好物だ。
 でもガキだったオレにとっても、それは好物だったのに。

 怖いテレビを夜に見て眠れなくなった時も、希名は一緒に寝てもらえるのに、オレは一人で寝ろと追い出される。

 希名がお兄ちゃんと呼ぶと笑って返事をするくせに、オレが呼ぶと微妙な顔をする。
 自然にオレは兄を『檀』と呼ぶようになった。

 その頃にはオレも結構大きくなっていたし、自分が兄にあまり好かれていないと、薄々気づいてはいた。

 でも『分け隔てなく』とは言い難いが、兄はオレの面倒もみてくれていたし、オレ自身は兄が嫌いではなかった。

 それが変わったのは、小学校高学年の秋。従兄弟の家に遊びに行くのに、オレだけ置いてきぼりにされた時だ。

 金曜の夕方、普通に学校から帰ると家に誰もいなくて、驚いた。
 両親も兄もいなくとも、家政婦さんと希名はいると思っていたから。

 いつもは持ち歩いている鍵を家に忘れたオレは、必死にインターホンを鳴らすが、返事はない。
 両親は仕事だし、仕方がないから玄関先で、兄をずっと待っていた。
 
 だが何時になろうと兄は帰ってこない。当然だ。希名と従兄弟の家で、楽しく過ごしていたのだろうから。

 寒空の中凍死しかけたオレが、やさぐれるのも、無理はないでしょうが。

 いくら希名が、物凄く可愛くても。兄の欲目を引いても、美少年であっても。
 そしてオレが、無愛想で可愛げのないガキだったとしてもだ。

 同じ弟だろ。しかもたった2つしか違わない、血を分けた兄弟だ。
 いくらなんでも、酷すぎねぇ?


『兄貴なんだから、我慢しなさい』 


 我慢?笑える。
 アンタに言われずとも、オレの幼年期の半分は、我慢で出来ていると思うよ。


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