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Others
9


 向かってきたボールを、オレは、右側にいる早乙女へとあげようとした。

 でも目の端で、ネットを挟んだ向こう側に、待ち受ける入鹿を見つけてしまう。


 完全に合わせられている。


 でもオレの前には、八束。フェイントも、もうきっと通用しない。

 そんな事を考えている間に、オレの手にボールは落ちてきた。


「っ、」


 惑いは、一瞬。

 ぐるぐると廻り混乱を極めていた脳が、余分な音の一切を遮断する。


「魚住」


 呼んだ声の主の顔は、見えない。
 早乙女の方へ向いていたオレからは、彼は背後にいる事になるからだ。

 詳しい位置もタイミングも、全く分からない筈。なのに。

 オレの体は条件反射の様に、迷う事なくボールを後ろへと、あげた。


ドンッ


 間を置かず、ボールが敵側のコートへと叩き付けられる。

 それは、奇跡では無い。
 一年先の未来では、良くある出来事。

 アイツがオレの動きが読めるように、オレも、アイツの動きだけは何故か分かったから。

 一緒に居る時間が長くなれば長くなる程、言葉がなくとも感じれた。


『お前ら息合いすぎ』


 そんな言葉を、クラスメイトから貰ってしまう程度には、通じ合っていた、けれど。


 でも、それは『今』ならば、有り得ない事。

 少なくともお前は、オレのくせなんて、知る筈無いのに。


「…………」


 コロコロと転がるボールを凝視していた審判が、ホイッスルを鳴らす。

 オレ達のチームの、1セット目先取を知らせる音と共に、白鳥が駆け寄って来た。


「何、今の!凄いね」


 珍しくも興奮気味に話す白鳥は、オレとアイツを見比べながら、無邪気に言う。


「お前ら、息合いすぎ」

「っ!」

 
 息を呑む。

 副音声みたいに、記憶の声と混ざって、オレは動揺を隠せない。

 ゆっくりと隣を見上げれば、少し瞳を緩めて、





 ―――志摩が、笑った。




なぁ、神様もどき。
これは一体、何のバグだ。


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