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「早乙女っ!」

「ああ!」


 呼んだ瞬間、駆けて来た彼が踏み込む。

 常人離れした跳躍を見せた早乙女が放ったスパイクは、小気味良い音をたてて、床に叩き付けられた。


「っしゃ!」


 パァン、と打ち鳴らすハイタッチも、最早慣れたものだ。

 試合直前の暗い顔なんて、もう思い出せない。早乙女は額に浮かんだ汗を拭いながら、快活な笑みを浮かべた。

 試合は、一進一退の攻防を見せている。
 

 相変わらず八束は脅威だが、歯がたたないレベルでは無い。
 
 早乙女の頑張りと白鳥の職人芸に触発されたのか、ラグビー部員二人も、結構健闘してくれる様になった。
 
 攻撃面は、早乙女が主立って頑張っている。

 熱くなる事は無いが、志摩も点数に貢献してくれているし、割とうちのチーム強いんじゃないかとも思うが、相手チームも結構手強い。

 特にセッターの彼が、結構良い仕事をしている。

 軽いノリの割に諦め悪くて、明後日の方向に跳んだボールも、しぶとく追いかけていた。

 両チームともセッターがしぶてぇ、と観戦している奴に呟かれた。そういや、諦め悪いのはオレもでした。


「っく!」


 早乙女の打ち込んだスパイクがブロックされ、彼は悔しそうに顔を歪める。

 試合も終盤に差し掛かり、早乙女のアタックも止められる確率が上がってきた。

 こっちが八束を止められる様になってきたように、向こうも進化してやがる。なんて忌々しい。

 ネット越しに、ニヤリと唇を歪めて笑う八束の顔面に、ボールをぶつけてやりたくなった。イケメン滅べ。


「白鳥っ!」

「はいよっと」


 呼べば軽い返事が返る。
 白鳥の職人技術も向上していた。打ち込まれたスパイクを拾い、尚且つオレの所へちゃんと上げて来る。


「とりゃ!」

「ああ!」


 視線で相手チームを誘導し、早乙女にあげると見せかけて、そのままネット際に落とした。

 ブロックする気満々だった入鹿達は、オレのフェイントに反応出来ず、悔しげな悲鳴をあげた。ざまぁ。


「おま……魚住!無駄に器用過ぎやろ!卑怯者!イケメン!バレー部入りや!」

「丁重にお断り致します」


 貶しているんだか誉めているんだか、良く分からない入鹿の言葉に、オレは優雅に礼をしてみせた。

 関西人ならではのノリの良さで、突っ込みを入れてくれるかと思ったが、普通に舌打ちされた。何この子怖い。


「その身体能力とセンスで、バレー部やないとか、ふざけんなや!」

「すまん。オレは帰宅部のエースなんだ……二足のワラジは履けねぇよ」

「格好ええつもりか!?」


 ドヤ顔で言ってのけたら、今度は突っ込んでいただけたが、八束の『二足どころか裸足じゃねえか』の方が突っ込みとして切れ味が良い気がする。


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あきゅろす。
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