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Others
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「……」


 正直、驚いた。
 オレが知っている『会長』を一言で表すなら、傲慢だった。周囲の意見になど耳を貸さない暴君だった。
 一人で何でも出来てしまうから、助けを乞う事も無く。どんどん周囲との溝が深まっている事にも気付けない、寂しい王様だった。


 今目の前にいる男が、同一人物だとはとても思えない。
 心配してくれる。不器用に好意を向けてくれる。一生懸命、それを伝えようとしてくれる。『会長』が放棄していた努力を、『八束』はちゃんとしてくれた。


「……八束」

「……何だ」


 叱られる事に身構える子供みたいな顔で、それでも八束はオレを見た。目を逸らさずに。
規格外の男前なのに、台無しにする勢いで馬鹿で不器用。でも、今のお前なら、オレは結構好き。傲慢不遜な王様より、ずっとずっと。


「心配してくれて、サンキュ」

「蜜……」


 口角を上げて呟くように告げれば、切れ長な瞳が瞠られる。
 ネットを掴んでいた大きな手から力が抜け、ゆっくりと落ちた。


「あ、でも」

「?」

「試合はこのまま続行するから」

「……はぁっ?」


 ニッコリと宣言すると、八束は顔を歪め、心底呆れた様な声を出した。
いや、こっちが『はぁ?』だよ。


「何でそうなる」

「や。当たり前でしょ。此処で『じゃあお前のチームに入れてもらおうかな』とはならねえよ。どんだけオレ、フリーダムなのそれ」

「そこは流されておけよ」

「いやいや、授業だからコレ。そんな俺様なドラフト逆指名、まかり通らないから」

「押し通す。来い」

「!」


 何故か自信満々に言い切った八束は、オレに向かって手を差し伸べた。
 一瞬言葉に詰まる。阿呆過ぎて。
 コイツ、こんな残念なイケメンだったっけ……。


「駄目だ」


 反応の遅れたオレの代わりに、別の声が応える。
 ずい、と蜂蜜色の後頭部が前に割り込む。背に庇う様な仕草をした小柄な人物は、早乙女だった。


「魚住は、うちの大事なセッターだ。……渡す事は出来ない」

「…………」


 八束の鋭い視線が、早乙女に突き刺さる。一瞬身構えたが、早乙女は引かなかった。唇を引き結び、八束と対峙する。


 もう一回言おう。何でこうなった。


「八束……お前いい加減に」

「……なら、勝負だ」

「は?」


 いい加減にしろ。そう言おうとした言葉は途中で遮られた。
 オレを放置し睨み合う八束と早乙女。無視かい。こいつら殴ってもいいですか。


「1セット目先取したら、ソイツはこっちに貰う」

「はぁっ!?」


 余りの事に、オレは叫んだ。
何言ってんだコイツ。


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