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Others
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 自分で『飛べ』なんて偉そうに言っておきながら、オレはちょっと感動していた。
ああ、本当にコイツは原石だったんだな。オレの様な器用貧乏とは違う、天賦の才の持ち主だ。


 早乙女の背が撓る。呆然と立ち尽くす連中の間を通り抜け、床に叩き付けられたボールは、バァン!と強烈な音をたてた。


「…………」


 コロコロと転がるボールを見送ってから、皆が揃って早乙女を見る。敵も観戦者も、味方も皆。勿論オレも。


 オレの視界に映る早乙女は、呆然とした横顔。ゆっくりとした所作で、早乙女は己の手へと視線を落とす。
確かめる様に何度も指を動かした。何もない掌の中に、何かを握りこむ仕草を繰り返した早乙女の表情が、徐々に輝きだす。


「っ!」


 グッと握りこんだ拳を突き出した早乙女に、ワッと周囲が沸いた。


「凄ぇ!!今どんだけ跳んだ!?」

「早乙女マジカッケー!!」


 早乙女への素直な賞賛を聞きながら、オレは表情を緩めた。
そうだ知れ。コイツは恰好良い男なんだと。そして少しずつでもいいから浸透していけばいい。
この男は、姫と呼ばれる程、細くも弱くもないのだと。


「…………」


 ニマニマと緩んだ顔を晒しているオレの眼前に、手が突き付けられる。視線を上げると、呆れ顔の白鳥と目が合った。


「よぉ職人、流石だよな。オレはお前を信じていたぜ」

「よく言うなぁ。一本見送った時、振り返ったお前の顔に書いてあったぞ。『おいおい大丈夫か』って」

「よぉ職人改めエスパー」

「はいはい。さっさと起きようね正直者」


 差し出された手を掴み起き上がる。間近で目を見合わせ同時に吹き出した後、オレは両方の掌を白鳥に向けた。
目を弓型に細めた彼は、ノリ良くハイタッチに応じる。


「魚住!」

「おう、やったな!早乙女」


 オレ達二人が端の方でニヤついていると、早乙女が駆け寄って来た。生き生きとしたその表情は、今までとは全く違う。年相応、等身大の男子高校生のものだ。


「恰好良かった」

「!」


 瞬時に染まる頬。赤い顔の早乙女は、言いたい事が喉の奥に閊えた様な、もどかしい様子で視線を彷徨わせる。
ああ、分かる。本当に感極まった時って、上手く言葉に出来ないよな。
でも無理に言葉にする必要なんて無いでしょ。


 オレはニッコリと笑んで、頭上に手を掲げる。


「……」


 躊躇し、自分の手とオレを見比べる早乙女。促す仕草でヒラヒラと掌を動かせば、彼は輝くような笑みで手をあげる。



 パァン、と
掌が合わさる、小気味良い音が体育館に響いた。


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