Others 2 「……っ、」 志摩。 自然に口から零れ落ちそうになった呼び掛けを、オレは必死に飲み込んだ。 伸びそうになる手を、誤魔化す様にジャージのポケットに突っ込む。 久々に間近で見た顔は、相変わらず芸能人も顔負けな位綺麗で。けれど見慣れた志摩の顔とは程遠かった。 能面みたいに張り付いた無表情を見ていると、自分の選択が正しかったのか迷いそうになる。 でも、その迷いを無理矢理断ち切った。死んでしまう未来より、悪いものなんてない。 そう、自分に言い聞かせて。 「この中で一番背ぇ高いのは、潮か。潮、ポジション前で良い?」 「構わない」 白鳥が提案すると志摩はあっさりと頷く。 同チームなのに、あからさまに避ける訳にもいかないので、黙って話の流れを聞いていると、白鳥はオレに話を振ってきた。 「その隣、前列右は魚住ね」 「は?」 何故かオレには疑問形ではなく断定形。 当然オレは反論した。 「何でだよ。オレよりお前の方がデカいだろ」 ちなみに志摩→白鳥→ラグビー部員1→オレ→2→早乙女の順だ。 志摩と白鳥は180越え。ラグビー部員1と2とオレは、ほぼ一緒で175前後。早乙女だけが、170弱。 「魚住って小器用なイメージがあるから、セッターやってよ」 「……お前」 イメージだけで決めるとは。しかも強ち外れじゃない事が恐ろしい。 中学校の球技大会等で、よくオレはセッターをしていた。ある程度練習すれば、一通り出来るようになるのがオレだ。 小器用と言うよりは、器用貧乏だとは思うが。 「まぁいいけど。……あとはどうするんだ」 「オレは後衛がいいな。他の皆は希望ある?」 そう白鳥が問うと、早乙女が顔を上げた。 物言いたげな早乙女は、口を開きかけるが躊躇う様な素振りを見せ、結局は口を閉ざしてしまった。 何を逡巡しているのだろう。 飲み込んでしまった言葉の続きを促そうと、オレは早乙女に声をかけようとした。 だがそれより早く、ラグビー部員が口を開く。 「オレ、前列がいい」 「…………」 その言葉を聞いた瞬間、早乙女の眉がピクリと動く。 それを見たオレは、もしかして、早乙女も前が良かったのか。と納得しかけたのだが……、 「白姫(シラヒメ)はオレの後ろにどうぞ!絶対にお守りしますから」 ドヤ顔で続けたラグビー部員に、オレは呆気に取られた。 白姫って、何ぞ? 「ズリィ!抜け駆けだろうが!!白檀の君、オレもお守りします!」 もう一人のラグビー部員は、そう身を乗り出し、早乙女にアピールした。 ああ、成る程。 白檀の君、以外にも、白姫って呼び方がある訳ね。 納得しながらオレは、冷めた目で二人の男共を一瞥した。 こんな扱いされるぐらいなら、確かに一人でいる方を選ぶわ。 早乙女は立派な男だって、何で分からんかな。コイツ等。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |