Others
5
「……オレ、そんな嫌な言い方してた?」
随分捻くれた捉え方すんな、と思った後に気になった。
もしかして、オレの表情や言い方がまずかったのかと。
困惑顔でそう問えば、オレより更に戸惑った表情で早乙女は、かぶりを振った。
「……いや、そうでは無いが」
一応の否定に、オレは安堵の息を吐き出す。
「そっか。誤解させたみたいだから一応説明するが、オレのダチが授業遅くなるみたいで、今一人なんだ。他の奴らの所に混ぜてもらうかとも思ったけど、お前あいてそうだから、組んでもらおうかって声かけた」
簡易的に説明をする。
すると早乙女は成る程、と独り言のように呟いた。
「……つまり君の友達が帰って来るまでのピンチヒッターか」
確かにその通りなんだが、改めて言葉にすると、結構酷いなオレ。
友達いたらお前に声かけねぇよと、言っているようにも思える。
「スマン、気悪くしたか?」
頭を下げようとするオレを制し、早乙女は首を振って否定した。
「いや」
無表情ながらも、早乙女は言葉通り怒ってはいなそうで、オレは安堵の息を吐き出した。
「……そう言う理由なら、お相手しよう」
「え。いいのか?」
怒ってはいなくとも、まさかオッケーを貰えるとは思っていなかったオレが目を丸くすると、早乙女は頷いた。
美人だ、とは思っていたが……コイツ格好良いな。
表情とか、立ち姿とか。何か一々男前。
「では先ずは、柔軟からか」
騒つく周りを放置し早乙女は、ボールを置いて、オレへと近付いてきた。
柔軟を始めると、あからさまな野次は減ったが、わりと密着する分、呪咀めいた熱視線が刺さる。
明日からも、無事に過ごせるといいなぁ。
半ばヤケになりながら、渇いた笑いを洩らした。
「行くぞ」
床に座り開脚したオレの背を、早乙女が押す。
意外と大きな手の感触を感じながら、オレはふと思い出した。
あれ?副会長って確か、潔癖症って噂あったような……。
そうだ。だから手作りの菓子や弁当の差し入れはNGだと、クラスの奴が言っていた気がする。
けれど今、オレの背を押す手には、そんな素振りは無い。
噂は所詮、噂か。
「…………」
でもそうやって一蹴も出来ない。
これから、潔癖症になる原因が起こってしまう可能性もある。そうなってからでは遅い。
「……どうした?」
「……え?」
考え込んでいたオレの肩を、早乙女が叩く。反射的に振り返ると、覗き込む綺麗な顔が至近距離にあった。
その表情は心配そうに歪められていて、オレは目を瞠る。
擦れ違う時に見た、未来の副会長の冷たい瞳とは全く違う。感情がある。気遣える優しさがある。
やっぱり何かがあったんだ。
この優しい奴を、変えてしまうような何かが。
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