Others
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「最近お前、獅子堂と仲良いよなー」
体育の授業前、更衣室で着替えの最中の事だ。そんな言葉をかけられたのは。
シャツを片袖だけ脱いだ状態で、オレは一度静止する。
隣へ視線だけ向けると、オレの前の席(つまりは獅子堂の隣)のクラスメイト、白鳥(シラトリ)が興味深そうにオレを見ていた。
「……まぁな」
着替えを再開しながら、適当に返事をする。
どうとでもとれる回答が不満だったのか、着替えが終わってるにも拘らず白鳥はその場を去る事無く、更に質問してきた。
「ついこないだまで、全然そんな素振り無かったよな。何で突然?」
据え置かれた背もたれの無いベンチに腰掛け、こちらを興味津々に見上げる白鳥に、オレは内心で『暇人め』と毒付く。
だが暇人は一人では無かったらしく、他2、3人が話に食い付いてきた。
「そうそう。オレも気になってた」
「確かに、変な組み合わせだよなー」
放っておけっつーの。
イケメンと美少女が付き合い始めたならともかく、野郎二人がつるみだしたなんて、至極どうでもいい話題じゃねぇ?
思わぬ所で暇人らに捕まったオレは、遠い目をして嘆息した。なんて面倒臭い。
ちなみに噂の片割れ、獅子堂八束君は、只今生徒会室に資料届けに行っております。終わったら直行するっつってたから、遅刻の心配は無いと思う。
「この前の古文の授業中、アイツ具合悪くなったじゃん?」
「ん?……あー、そんな事もあった気も…するか?」
「あったの。で、オレが運んだ」
「……それで?」
だから、何?
そう言いたげな、先を促す声。
着替えを終え、ロッカーの扉を閉めたオレは白鳥らに向かってニンマリと笑む。
「そこで献身的に看病して……愛が芽生えちゃったってやつ!きゃっ、恥ずかしっ!」
「「「キモッ!!」」」
わざとらしくシナをつくるオレに、白鳥らは同時に吹き出した。
ガチな奴が多い男子校的には、この手の悪ふざけはタブーだったりするのかと一瞬躊躇したが、どうやらセーフだったらしい。良かった。
「魚住ぃー。嘘つくにしても、もっともらしい嘘つけよ」
「絶対お前、獅子堂の好みから外れてるって」
「まっ、失礼ねっ!ダーリンはノーマルよ!」
なら尚更オレは対象外だって言うオチ。
でもそれには突っ込まずに、白鳥は成る程と呟いた。
「ノーマル繋がりでダチになったんか」
「んー……まぁ、それも込みで」
歯切れの悪いオレに、白鳥は首を傾げた。
「つーか魚住。お前、よく獅子堂と普通に付き合えるよな」
そう言ったのは、白鳥ではない。名前はうろ覚えで……確か、熊だか馬だが動物系の字が入った名前だった気がする。
「なんか世界が違うっつーか。オレ、一言二言話すだけで超緊張するもん」
「確かに」
「人当たり悪い奴じゃねぇんだけど、何かこう……壁を感じるんだよな」
「あー……」
そう言われてしまえば、反論出来ない。オレは緩い苦笑を浮かべた。
獅子堂八束が面倒臭い男である事は言ったが、これもそう。
手間、2。
人見知りである。
外面は良いが、自分のテリトリーには中々人を入れようとしない。
古傷を庇う様に、人との関わり合いに、身構えてしまっている。
何度も痛い目見てれば、当然かもしれない。その辺りはオレも分かるので、無理強いはしないでおく。
でも、少しでも早く、その壁が崩れればいい。そう願う。
だって、勿体ないじゃん。
「あいつ、少し不器用だけど……良い奴だよ」
そう笑いながら言うと、白鳥は目を丸くしてから、へぇ、と小さく呟き、オレと同じ様に緩く笑った。
獅子堂八束は、面倒臭い男だ。
だがその手間を、仕方ねぇなぁ、とため息付きで許せてしまえる程度には、
良い奴、である。
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