Others
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「…………」
獅子堂の切れ長な目が、際限まで見開かれる。思いもしなかった事を言われたかのような、唖然とした顔にオレは呆れを隠せない。
もしかしてコイツ、無理してた自覚が無かったのか。
「……オレは、……完璧じゃなくても、いいのか?」
呆然と呟かれた言葉は、痛々しい。自惚れるなと笑う事さえ憚られる程、真剣な顔をしていた。
だがオレは敢えて、そんな獅子堂を鼻で笑った。
「なにお前。何でも出来る完璧超人なつもりだったの?痛ぇなオイ」
「っ!」
オレのからかいに、獅子堂は精悍な美貌を瞬時に赤く染める。
如何に自分が、自惚れ厨二発言をしていたかを理解したらしい。
「違ぇ!!オレはっ、」
「うん?」
「……オレは、」
真っ赤な顔で噛み付く獅子堂に、穏やかな相槌を返せば、出鼻を挫かれた様に、勢いが急激に萎んだ。
浮かしかけた体を再びベッドに沈め、左手の甲を額に押し付け顔を隠した獅子堂は、ポツリポツリと呟くように話し出す。
「オレは、少しだけ器用な凡人だと、自分の事を思っている」
よーし。その喧嘩倍額で買ってやろうじゃないかイケメン太郎が。
一瞬浮かんだ殺意を封じ込め、オレは話の続きを黙って聞いていた。オレって人間出来てる←
「だが周りの評価は違う。天才だカリスマだと勝手に持ち上げ、何か出来ない事があれば勝手に失望していく」
「…………」
「オレはただの人間だ。出来ない事だって当然ある。なのに周りはそれを認めない。出来ない訳がない、手を抜いているんだろうと邪推される。……息苦しくてたまらない」
イケメンは、イケメンなりの悩みがあるらしい。
まぁ確かに、イメージを作り上げて、それにそぐわぬ行動をすれば失望するなんて、勝手すぎる話だ。
……でもさ。
「……馬鹿堂」
「……は?」
「獅子と言うよりは、お前には馬と鹿がお似合いだ」
「……テメェ、」
淡々と悪口をぶつけると、左手の影から現れた目が、殺気を宿し細められた。額に青筋まで浮かべちゃって、迫力満点。わぉ。
でも生憎今のお前は、半死に状態。半熟ゾンビなんて恐れるに足らず。
視線を真っ正面から合わせたまま、オレはニンマリと笑みを浮かべた。
「だって馬鹿じゃん。何でお前、嫌いな奴らに失望されんのを恐がってんの?」
「……何?」
「それともお前は、勝手にイメージを作り上げて崇拝してくる奴らや、僻みでいちゃもんつけてくる奴らが好きなの?なに、おまえ実はどエム?」
「違ぇ!!」
本日二度目の叫びを聞きながら、オレは笑った。
からからと、軽く。こんな事は何でもない事だと笑い飛ばす様に。
獅子堂の悩みは結構深いもので、簡単に笑い飛ばしていいもんじゃない。本当は。
だが、根が真面目なコイツは、深く考えてはいけない。きっと抜け出せなくなるから。
「なら、いいじゃん。お前はお前らしく生きろよ」
「…………魚住」
「周りに何て言われても、気にすんな。外見に囚われず、ありのままのお前を見てくれる恋人……は見つけるのかなり難しそうだが」
「おい」
良い話風にまとめようとしたが、途中でぼかす。
いやだって、女の子って夢見がちなのに妙にリアリストというか。
ガツガツした肉食系は、物凄く獅子堂に食い付きそうだが、逆に中身重視タイプの女子は、コイツの事、観賞用認定しそうだなぁと。哀れ過ぎる。
うろんな目を向けてくる男前に生温い視線を向けながら、オレは付け足した。
「見てくれに惑わされないダチくらいなら、結構簡単に見つかるかもしれねぇじゃん」
そんな、緩い言葉を。
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