Others
接触しますか?(Ver会長)
缶コーヒー片手に、オレはこれからの事を考えてみる。
この日、オレは何処へ行くつもりだったんだっけ?
志摩に小銭を拾ってもらったオレは、お礼にとアイツにも缶コーヒーを奢り、そのまま教室に向かったんだが、当初は確か…、
特別棟の裏手にある、芝生地帯へと足を進める。
志摩とつるむ様になるまでは、其処はオレの昼寝スペースだった。
中々人は来ないし、静かで日当たりも良い。
大きな木の下で程よく木陰が出来る其処に、オレは行く予定だった筈。
「…………」
だんだんと思い出し、向かったその場所には、思わぬ先客がいた。
鋭い瞳に、意志の強さを表す凛々しい眉。通った鼻筋に厚めの唇。
雄、と表現したくなるような、男の色気が溢れる美貌の主がそこにいた。
「……お前、」
ノートに落としていた視線を上げ、ソイツはオレを見上げた。
思い出そうとしている仕草なのか眉間のシワを指で押さえるソイツに、オレは苦笑する。
「魚住だ。……獅子堂」
「あー…悪ィ」
バツが悪そうに頭をかいたソイツの名は、獅子堂 八束(シシドウ ヤツカ)。
一年後の未来では、生徒会長を勤めていた男だ。
実は一年生の時(まぁ、つまりは今)、オレと獅子堂はクラスメイトだった。
接点は殆ど無いが、流石にクラスメイトの名を忘れている事には罪悪感があるらしく、獅子堂は申し訳なさそうに謝った。
手元のノートから察するに、勉強中だろうか。
邪魔するのも気が引け、立ち去ろうとしたオレに気付いた獅子堂は、木陰のスペースを、半分だけずれた。座れば、と言葉無く提案する様に。
「…………」
オレは思わず目を瞠る。
天上天下唯我独尊。我が道を行くオレ様で、常に人を見下した様な顔をしていた会長の、あまりに気やすい姿に、心底驚いた。
誰コイツ。頭の色が真っ赤ではなく、まだ地の黒である事を差し引いても別人みたいだ。
唖然としたまま動かないオレに、獅子堂は苦笑を浮かべる。
「突っ立てないで、座れよ。昼寝でもしに来たんだろ?」
「……ああ」
頷きながらオレは、ふと思い出した。
確かに関わりはあまり無かったが、一年の前半の獅子堂は、確かにこんな奴だった。
カリスマ性があり、行動力もあるが、周りの人間の事も気遣える…そんな超人だった筈。
……あれ?
じゃあ…いつ、コイツは、ワンマンなオレ様へと変貌を遂げてしまったんだ?
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