Others
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あの日、オレが階段から落ちる原因となった生徒…名は、蛇遣 十壱(ヘビヅカ トイチ)。
転校生である彼は、たった一月で、学園を混乱に陥れた。
彼自体は、明るく元気な普通の少年だ。
真っ直ぐすぎて、正義感が若干押し付けがましいきらいがあるが、そんなに悪い奴ではない、と言うのがオレ個人の分析結果。
だが問題は、この学園のトップ集団である生徒会が、彼に入れ込んでしまった事。
人気者である彼らが周りにいる事で、転校生はかなり悪目立ちする様になってしまった。
注目されていなければ、聞き流してもらえる様な言葉も一々取り沙汰される。
例えば『男に男の親衛隊があるとか、気持ち悪い』
外部生なら仕方ない感覚だ、と普通ならスルーされるだろう。
だが、生徒会を周りに侍らせている奴が言ったとなると、反感が物凄い。
彼は数日で、学園一の嫌われ者となった。
親衛隊だけでは無く、一般生徒にも嫌われてしまった彼は、小さな嫌がらせを受ける様になり、
それを心配した生徒会連中がより、彼に引っ付くという悪循環。
彼の為に時間を割きすぎて、生徒会の仕事が滞るようになる頃には、学園の雰囲気は最悪になっていた。
何とかならないのかと思いつつも、オレは何もしなかった。
たった一人の人間に、何が出来る訳でもなし、と離れた場所で傍観していただけ。
あの日転校生は、もしかしたら誰かから逃げていたのかもしれない。
学園の混乱が起きなければ、オレは死にかけずに済んだかもしれないし、その身代わりにアイツがなる事も無かった。
「…………」
ピ。ガコン。
オレは無表情のまま、ブラックコーヒーのボタンを押す。
出てきた缶を拾い上げたオレは、その場から去るべく踵を返した。
通路前方から、アイツがやってくる。
何時もは、オレを見つけると、アイツは少しだけ瞳を緩めていた。
ほんの少しの変化だから、気のせいかもと思っていたが、他の奴に『お前と一緒だと、アイツの空気が柔らかい』と言われた辺り、ただの自惚れでは無かったらしい。
だがそれは、一年も未来の話。
現時点では、関わりなんて殆ど無い。
……そして、これからも関わりは持たない。
「…………」
無表情のままのアイツが、近付いて来る。当り前だが、オレに欠けらの興味も示さない。
それで、いい。
関わらなければ、少なくともあの日、お前がオレを庇う事はない。
五歩、四歩、三、二、一……
ス、と隣を通り過ぎる。
オレ達の関わりは、途切れた。
「…………」
だがオレは、振り返らない。
これで、いい。
心中でそう呟き、オレは缶コーヒーを握り締めたまま、歩きだした。
『よく、出来ました』
神様もどきの楽しげな声が聞こえた気がした。
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