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Others
群衆は識る。
※親衛隊長、二見視点です。



『――Yes my lord.』


この学園の王たる生徒会長が跪き頭を垂れた少年は、満足げに笑む。
その堂々とした様は、確かに王者のものだった。




二年のSクラスに所属する睦月 元(ムツキ ハジメ)は、特筆すべき箇所の無い一般生徒だった。その頭脳を除いては。
彼は日本有数の名門であるこの学園でも、トップクラスの成績保持者だ。入学当時から首席の座を護り続けている。


辞退したのか入学式の挨拶は次席の奴だった為、注目はされていないが。
地味な容姿も相まって、彼は一般生徒に上手く埋没している。


だがその地味な容姿さえも、巧妙に擬態していただけだったと、今さっき知った。
眼鏡を外しただけで、彼の印象はガラリと変わる。まるで繊細なガラス細工の様な美貌に、状況も忘れ見惚れそうになった。
長い前髪を上げれば、きっとこれ以上なんだろう。


「せ、セツ……何言っているの?冗談だよねっ?」


動揺しながら文月は、会長様に問い掛ける。
その目は、絶望と焦燥に揺れていた。


信じたくない気持ちは分かる。
けれど今更、焦って何になるのだろう。


会長様が、睦月 元を特別の位置に置いていた事は薄々気付いていた筈だ。
君も……僕も。


君が睦月を気に入って構う様になったのは偶然。そこに意図は無かっただろう。
けれど、あんなにも傍にいる様になったのは、気付いてからの筈だ。
睦月が傍にいる時だけ、会長様が寄って来る事に。


彼がいる場所にだけ、会長様が留まる事に。


親衛隊の皆は、文月海を許せないと詰っていたが、会長様が彼に興味を持っていない事は、見ていればすぐに分かる。
会長様の、硬質な美貌が緩むのは……視線で追うのは、文月海では無い。


睦月 元なんだ。


「ねぇ、ハジメも止めようよ!こんな悪趣味な…」

「無礼者」


睦月に駆け寄ろうとした文月の前に、風紀委員長様が立ちはだかる。
普段の緩い笑みは取り払われ無表情になった彼は、寒気を感じる程整った美貌を文月に向けた。


「元様は本来ならば、お前達の様な下賎な輩はお姿を見る事も適わぬ貴い御方。……馴れ馴れしく呼び捨てにするんじゃねぇよ、殺すぞ」


慇懃無礼な口調は、途中でガラリと変わる。純粋な殺気が放たれた。


「……止めろ、雛。誰彼構わず牙を剥く様な堪え性の無い犬はいらん」

「……はぁい」


不満げに口を尖らせながらも、風紀委員長様は威嚇を止めた。
まるで本当の犬の様だ。獰猛で牙の鋭い……だが唯一の主人には、何処迄も忠実な。


「お前等のせいで、面倒な事になった。……騒がしいのは好かん」


そうぼやく様に呟いた睦月は、踵を返す。
事態についていけずに、動く事も適わない僕らを放置し、立ち去った。当然の様に後を追う二人を伴って。



そしてその翌日。
睦月 元は学園を去った。
ツートップであった生徒会長と風紀委員長も、同様に退学し、学園は文月が転入してきた時とは比べ物にならない位に騒然とした。


後に噂で、彼、睦月が、世界有数の大富豪の実子である事を知る。
僕と同い年なのにも関わらず、幾つもの会社の経営に携わり規模をどんどんと拡げている彼と、彼の忠実な部下の活躍を耳にするのは、もう少し未来の話だ。


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