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Others
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「か、会長さ…」

「セツ!!」


会長様、と戸惑った様に呼ぶ二見の声に文月の声が被る。
喜色満面なその笑顔を見れば、誰もが察しただろう。彼、文月の想い人が誰であるか。


副会長らが忌々しげな視線を向ける中、会長…如月は此方へと向かって来た。


至極冷静な様子で周囲を見渡し、事態を見極めようとしている。
彼の視線に晒された二見は、哀れな程萎縮していた。


「お前は……確かオレの親衛隊の隊長だったな」

「……は、はい。二見と申します」

「何をした」

「っ……」


淡々とした問い掛けは、一片の温度も感じさせない。
ひたすらに冷たく、凍て付く氷柱の様な鋭さだけがある。


「……その子達、制裁しようとしたんだ」


唇を噛み締めたまま無言で震えている二見ではなく、文月が口を開いた。
暴露された親衛隊の少年らは、ビクリと体を跳ねさせる。


……被害者であるオレが黙っているのに、何故お前が言う。呆れ顔のオレの隣では、風紀委員長が同じ顔をしていた。


「セツと仲良い僕ならまだしも……関係の無いハジメを殴ろうとするなんて酷いよね」


基本オレは、この文月という少年が嫌いでは無い。
天真爛漫も行き過ぎれば鼻に付くが、コイツは適度な明るさで落ち着く。
潔癖で悪事を許せない所も、そのくせ情に流されやすい矛盾も、年相応の青さだと思えば受け入れられる。


……だが。

恋してからのコイツは、あまり好きでは無い。


周りを貶め、オレを利用する自らのあざとさに気付かずに、酔ったヒロインの様に会長に擦り寄る様は、気色悪い。
悪事を悪事と認めつつ足掻く二見の方が、幾分かマシだ。


「……何だと?」


文月の言葉に、会長は押し殺した様な声音で呟く。
地を這う低音は擦れており、その迫力に周囲は気圧された。


「……あ、で、でも僕は大丈夫!何もされてないよ」


慌ててフォローする文月は、一瞬ビビりつつも頬を赤らめた。恋い慕う奴が、自分の為に怒っているのだと思えば当然の反応だろう。
だが、よく思い返してみろ。文月。


会長…如月が怒気を顕にしたのは、お前が制裁されかけたからか?違うだろう。


「……貴様、覚悟は出来ているな」

「…………」


擦れた声でそう問われた二見は、元より覚悟していたのだろう。青褪めつつも潔く頷いた。


普段取り乱すどころか眉一つ動かさず、あらゆる事態を対処する理性の塊の様な生徒会長は、激昂していた。実に分かりやすく。


背筋の伸びた姿勢の良い長身がゆらり、と動く。まるで野生動物の様な無駄の無い動きで彼は二見との距離を一瞬で詰めた。
胸ぐらを掴みあげる。二見が殴り飛ばされる、そう理解した頃にはもう遅い。


誰もが息を飲み動けずにいる中、やる気無げな声が響く。


「――節(セツ)」


決して張り上げた訳では無い。
けれど彼には届いた様で。


生徒会長…如月 節は、二見に届く寸前で、その拳を止めたのだった。


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あきゅろす。
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