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Others
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「生意気な口きかないでよ!!」

「そうだよっ!!こんな奴、やっちゃいましょうよ二見隊長!!」


口を閉ざしてしまった隊長の代わりに、後ろの少年らが騒ぎ始めた。
隊長である少年を鼓舞する様に、『二見隊長!!』『愛様!!』と呼ぶ声が段々と増えていく。


だが隊長である二見は、動かない。否、動けない。
焦燥や嫉妬に駆られ、醜い行動をしている自覚があるのか、葛藤している様に見える。


「…………」


その必死な様が、余りに滑稽で、哀れで。
オレはゆるりと口角を吊り上げた。


「っ……!!」


オレの嘲笑に、二見はカッと白皙の頬を朱に染めた。
そして衝動のまま、手を振り上げる。


パァン、と。
渇いた音が響く……事は無かった。


「……っ?」


振り上げられた二見の手は、何者かによって阻まれ、オレの頬を打つ事は適わず。
オレは腕組みしたまま、何の感慨も無く、戸惑った二見の顔を見つめていた。


「……何してんのかなぁ?」


場に似つかわしく無い、甘い声が二見に問う。
オレらの間に割って入った男は、声同様甘い美貌に緩い笑みを浮かべている。


「ふ、風紀委員長様っ!?」


二見では無く、後ろの少年らの一人が叫ぶ。
ピンク色の長めの髪を後ろへ流し、赤縁の伊達眼鏡、両耳に合計五個のピアス。学校指定の物では無いシャツ、しかもボタンは殆ど留まっておらず。ケツポケから覗くウォレットチェーンに繋がれた財布は派手なピンク。


上から下まで眺めただけでも校則違反の数が片手では足りなくなったこの男は、あろう事がこの学園の風紀委員長なんてものをやっている。
名は、弥生 雛(ヤヨイ ヒナ)。

可愛らしい名と甘い美貌に騙されてはいけない。
この男は、自分の校則違反は棚にあげ、他人の罪は見逃さす徹底的に追い詰める鬼畜だ。


今も酷く愉しそうな顔で、二見らを観察している。


「制裁中?お仕事熱心だねぇ……生徒会長親衛隊は」

「……っ!!」


ヒュ、と息を飲む音がした。
二見の顔は、真っ青だ。


当然だろう。この弥生という男に、見逃すなんて選択肢は無い。
このままでは、自分達が尊敬し愛する生徒会長の顔に泥を塗る事になるのだ。


「…………」


細い肩が酷く震えている。
掴まれていた手を離され、バランスを崩して華奢な体がよろめいた。気丈な少年の、そんな頼りなげな様子は保護欲をそそる筈。


けれど弥生は、ニヤニヤと質の悪い笑みを浮かべ更に追い詰めた。


「バッチリ手をあげようとしてたよねぇ。生徒会の連中がご執心な文月ちゃんじゃなく、こっちの子を狙うなんて、中々陰湿だし。見逃す訳にはいかないかなーこれは」


始めから見逃すつもりなんて無かったくせに、よく言う。
呆れつつも、フォローはしない。


「弥生様……ち、違うんです!!そいつが悪いんです!その男は、役員でもないのに、生徒会の皆様にまとわりついて、お仕事の邪魔を!!」

「そうです!!め、迷惑しているって皆様も」


隊長の二見では無く、その他の連中は保身の為か口々にオレを貶め始める。
その醜さに、怒りよりも呆れが先行した。


なんて短絡的な。
目の前の男が、そんな戯れ言に左右される様な生易しい存在に見えるのか。
伊達眼鏡の奥の瞳が、冷たく眇められている事に。口元に浮かんだ薄笑いが、冷嘲にすげ替えられている事に、気付かないのか。


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あきゅろす。
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