Others 2 「…以上の理由から、書記を辞任させていただきます。」 「………………、」 淡々とした説明を終え、漸く一番言いたい事を言えたオレが見つめる先、 副会長に就任したばかりの、安曇 晴は唖然とした表情をしていた。 安曇 晴は、安曇 雪の双子の弟であるが、顔の造り以外は全く似ていない。 …いや、顔の造りもあまり似ていないな。 淡い栗色の髪は染めてあるのだろうが、そんな問題じゃなく、安曇 雪は知性や自信が外見にも現れていたし、もっと思慮深い瞳をしていた。 同じ顔だからこそ、余計その差が出る。 同じ顔でも、コレは綺麗だと思えない。 「えっ、と…」 理解していない顔の安曇 晴に、オレはもう一度繰り返す義務も無い、と無言で辞表を机に置き、踵を返した。 「ち、ちょっと待って!」 「……………。」 慌てて回り込んだ安曇 晴を、オレは冷たい目で見る。 だが安曇 晴は怯んだりせず、真っ直ぐにオレを見て、必死に懇願した。 「考え直してくれないかな…!?僕、兄さんみたいに優秀じゃないし、不器用だけど…でも頑張るから!!だから、支えて欲しいんだ…。」 「何故?」 「……えっ?」 端的に問う。 目を丸くする安曇 晴に、オレはもう一度疑問をぶつけた。 「何故、オレが貴方を支えねばならない?」 出来ないけれど、一生懸命やります。 …それに、何の意味がある? 世の中は結果が全てだ。経過を見て評価してくれるのは、小学生までだろう。 出来ないなりに頑張れば、全ての人間が許すなど、勘違いも甚だしい…ましてや支えろなど、傲慢にも程がある。 「オレは、何の得にもならない事に費やす時間など持ち合わせていない。他をあたれ。」 「……っ!!」 泣き出しそうに顔を歪めた安曇 晴を放置し、オレは再び歩き出した。 …ガチャ、バタン。 「…………貴方も、聞いていましたね?」 「……………。」 扉を開け、生徒会室を一歩出ると、微動だにせず、此方を睥睨する男がいた。 気付いていたので驚きは無い。 壁に凭れた男の目は、酷く暗く淀んでいた。 「短い間でしたが、お世話になりました…会長。」 生徒会長――天堂 雷に軽く頭を下げ、オレはそのまま彼の前を通り過ぎた。 「…転校するというのは、本当か。」 「…はい。」 ふいに投げて寄越された問いに、オレは足を止める。 「アレを追うつもりか。」 「はい。」 侮蔑と憧憬が入り混じったかのような、苦く複雑な声に、オレはハッキリと肯定する。 振り返り、赤銅色の瞳を見据えながら、オレはゆっくりと口角を吊り上げた。 「真に望む主人の元では、あの人がどれ位輝くのか…オレはそれが見たい。」 「…………っ、」 心の深くを抉られた様な顔の会長に、トドメとばかりに、 此処では一生見られませんので、と付け加え、 オレは今度こそ振り返えらずに歩きだした。 あんな連中に構っている暇など無い。 さっさと転校し、あの学園でも生徒会に入れるよう、手を尽くさねば。 今期は無理でも、来期は必ず。 そして、間近で見るのだ。 真に輝く、白雪を。 (嗚呼――彼は本当は、どんな顔で笑う人なんだろう?) END [*前へ][次へ#] [戻る] |