Others
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雨音様が後継者としての地位を放棄なさろうとした時、旦那様は当然許されなかった。
雨音様は奥様のお子ではなく、天堂家でメイドとして働いていた方の子…所謂妾腹。
それにも関わらず、正妻の子である雷を押し退けて後継者になったのは、生まれた順の為では無い。とても優秀な方だからだ。
それに旦那様は、オレの事もかって下さっていた。だから主従纏めて天堂を出ていく事を許さなかった。
頑として譲らない雨音様に、やがて譲歩した旦那様はオレに、雷に仕えよとおっしゃった。
もしも、雷がオレを『いらない』と言えば、二人ともども、天堂から解放してやる、と。
雷は、雨音様にコンプレックスを持っていたから、雨音様のものだったオレに執着するだろう事は予測出来た。
望む全てを雨音様が持っている、なんて被害妄想を抱いている奴だ。
飽きたところで、簡単に手放してくれるかは、分からない。
それでも、オレは受けた。
あの方の傍に居れる、未来の為に。
「…………。」
オレはグイッ、と涙を拭い、晴れ晴れとした気持ちで顔を上げる。
馬鹿ップルへの苛つきさえも、今の清々しさの前では気にならない。
「じゃあ、晴。後は頼んだ。」
「は…、えっ?」
「これから大変だろうけど、頑張れ。」
「……雪先輩?」
疑問を向けて来たのは晴では無く、途中から黙って見守っていた嵐山だった。
隣の霧原も、同じような顔でオレを見る。
「お前等、生徒会の事頼むわ。…晴にはあんま期待しないでやってくれ。」
目を瞠る二人に、オレは苦笑する。
本来ならば、始める前から決めてしまう事じゃなく、不器用な奴だけど、支えてあげてくれ、程度に止めるべきだろう。
…だが、晴が此処に来た当初に言っていたように、晴には愛想と元気しか無い。
謙遜で無く、晴の不器用っぷりと勉強の出来なさは、付け焼き刃の頑張りでどうにかなる問題じゃあないんだ。
え?
そんな奴に従者が勤まるかって?
…無理じゃね??
従者って秘書みたいなモンだから、頭のキレと細やかな気配りが必要だからな。
でも、言っただろ。
そんな事は、オレの知ったことじゃない。
「オレ、明日転校するから。」
「…はっ?」
「雨音様が生徒会長を勤める学校に、転校すんの。」
呆然とする面々を見ながら、オレはうっとりと笑む。
此処での居場所は、全部晴にやるよ。
だって、
副会長としての居場所も
従者としての居場所も、
恋人としての居場所さえ、
オレの最愛の方が、用意して待っていて下さるんだから。
さぁ、旅立とう。
恵みの雨を求めて。
(今日からオレの幸せな日々が始まる。)
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