Others 3 冷えた声音は、オレの隣から聞こえた。 見ればさっきまで穏やかな微笑を浮かべていた霧原は、冷えきった声と視線を晴に向けている。 「…霧原君?」 おいおいどうした、霧原よ。 目からビームが出そうになってるぞ。 だが晴は怯んだ様子も無く、ニコニコとしながら生徒会室の奥へと進む。 「ごめんね、霧原君!雷(ライ)を起こしたら、すぐ出ていくから!」 悪びれずに晴が手をかけるドアは、隣に設置された仮眠室へと続くドア。 晴はそのまま消えていく。 …今は、生徒会長、雷が眠っている、仮眠室へと。 「…………。」 我が弟ながら、その敢えての空気の読まなさっぷりには感心するわぁ…。 「…どういう事っすか?副会長。」 ヒヤリ、とした声音が、霧原とは違う方向から投げ掛けられた。 見なくても、分かる。 聞いた事も無い底冷えのするような声で、でも口調は何時も通りだったから、余計怖ぇ。 イケメン爽やかスマイルを浮かべる嵐山の目は、笑っていないどころか氷点下でした…。 いつからウチの生徒会は、目からビームが標準装備になったんですか。 「………えーと、見たまんまです。」 ヘラリ、と誤魔化すように笑い、小さく呟くと、後輩二人の眼光が増した。……怖ぇよ。 「…盗られた、と?」 霧原は、淡々とした口調で、簡潔に告げた。 直球過ぎ。 「…会長とは、昨日別れました。」 オレは嘆息し、呟いた。 本当はさっき、これも含めて説明する筈だったんだがな。 「盗られたんでしょう。」 「……………。」 …しつけぇ。 つか断定口調で詰め寄ってくるな。 若干イラッとしつつも、なんとか猫を被り苦笑を浮かべた。 「…天真爛漫な晴に惹かれるのは、仕方の無い事なのでしょう。」 「…天真爛漫、っすか?」 ハハッ、と嵐山は空々しい笑い声をあげる。 …人が精一杯、悲劇のヒロインを演じようとしているのに、二人で邪魔をするな。 此処は、『元気だしてくださいね。』とか『先輩にはもっと合う人がきっといますよ。』とか、当たり障りの無い言葉でお茶を濁すのが妥当な場面だろうが。 「確かに何も考えてないみたいっすが、天真爛漫なんて良いモンじゃないっすよね。」 「自分の兄の恋人を奪っておいて、申し訳なさそうな顔一つせず、ズカズカと踏み込んで来る…ただの無知で恥知らずなガキです。あれは。」 …人の弟つかまえて、随分辛辣だな、お前等。 ま、フォローする気も無いけど。 良く言って、天真爛漫。 悪く言えば、厚顔無恥。 弟に対するオレの評価は、そんなとこ。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |