Others
策に溺れた策士の話。
※副委員長視点です。
「……笑えばいい。愚かで滑稽だと。」
私は震える声でそう呟き、花菱を睨み付けた。
風祭様に拒まれ、同じ部屋にいれる程、私は強くなく、
用は済んだとばかりに部屋を出る花菱と共に、風紀室を後にした。
花菱は侮蔑に満ちた目で私を一瞥した後、長いため息をつく。
「本当、お前卑屈だな。…マジ嫌ぇだわ。ウゼェ。」
「っ…、」
「下衆い手使って、好きな奴を陥れて、なに被害者顔してやがんの?お前のせいじゃない…お前は悪くないとでも言って欲しいのか?」
「違っ、」
「死んでも言うかよ…オレの大事な月村を、クソみてぇな手で傷付けやがって…殺してやりてぇよ。」
「…っ!!」
花菱の、憎悪に満ちた目が、私を捉えた。
背筋も凍るような睥睨を受け、不様にも足が竦む。
彼は、
月村は、
風祭様だけでなく、花菱にまでも、こんなにも大切にされている。
整いすぎた美貌を持ちながらも、明るい笑顔と気さくな性格で、遠巻きにされる事無く、沢山の人に愛される月村。
誰からも愛される月村。
妬ましかった。
羨ましかった。
私とは何もかもが違いすぎて。
それなのに、風祭様まで奪うなんて、許せる筈無い…!!!
「…彼は、なんだって持っているだろうっ!!そんな人間に、私の惨めさなんて一生分からない…!!」
叫ぶように吐き出した私に、花菱は暫く沈黙する。
だがやがて、静かな声で、ああ、と肯定した。
「分からないだろうな。一生。」
「…っ!!…やっぱり、」
「ならお前は分かるのか?真面目に誠実に生きていた奴が、勝手な偏見で根も葉も無い噂を流される気持ちが。」
「……………ぇ、」
花菱の言葉を一拍遅れて理解した私は、ゆっくりと顔をあげた。
真っ直ぐに向けられた淡いブラウンの瞳を見つめ、私は呆然とする。
「さっきオレは風祭に、『直接本人に聞いたのか』っつったよな。…オレは出会った当初に月村に聞いた。『過激な武勇伝持ってるみてぇだが、どこまで本当だ?』ってな。」
「っ!!」
「月村は泣きも怒りもしなかった。『全部嘘だよ、たぶん。』なんて緩い笑顔浮かべて、その後さっき話した中学時代の話を教えてくれた。」
「……………。」
「少し派手な見た目してるだけで、損な噂流されてんのによ。キレもしねぇで、聞かれた奴全員に、そうやって馬鹿正直に答えてるアイツの気持ちが、テメェに分かんのかよ。」
「……………っ、」
何も、言い返せなかった。
…本当は知っていたんだ。月村が良い奴だって事くらい。
それでも、
それを認めてしまったら、
自分が、あんまりにも惨めじゃないか。
「風祭に嫌われようが、惨めな思いしようが、それはテメェの自業自得だ。…月村を逆恨みしやがったら、今度こそ潰すかんな。」
地の底を這うような低い声で告げ、去っていく花菱の背を見送りながら、私はその場に崩れ落ちた。
『自業自得』
その言葉が、重くのしかかる。
そうだ。
嫉妬に狂うあまり、薄汚い策を弄し、
結果、それらが自分に返ってきただけの事。
愚かな私は、彼を陥れるつもりで、
自分の手で、自らの首を締めていたんだな。
END
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