Others
石橋を叩き過ぎた彼の話。
※風紀委員長視点です。
「別れましょう。」
彼は、とても綺麗な顔立ちをしていた。
全てのパーツが絶妙なバランスでおさめられている小顔は整いすぎていて、ともすれば冷たくも見えてしまいそうなのに、彼が冷たそうだなんて、思った事は一度も無かった。
それは彼が、とても表情豊かな人だから。
のんびりとした笑みを浮かべたかと思えば、
好奇心旺盛に、キラキラと瞳を輝かせ、
拗ねたように唇を尖らせたかと思えば、
ま、いっか、なんて飄々と笑う。
クルクル表情を変える彼から、目を離せなかった。
いつの間にか、彼を目で追う自分に気付いてから、立場を利用して少しづつ距離を縮め、『仲の良い先輩』というポジションを得た。
幸い、彼はオレなんかを尊敬してくれていたから、堂々と傍に居て、甘やかした。
ゆっくりと、
彼のオレを見る目が、他の奴らに向けるものよりも、甘くなる。
その目が、
その笑みが、
とても好きだ。
なのに今、
オレの前に立つ彼は、見たこともない、無表情。
……いや、違う。
オレの自惚れでなければ、その瞳は、悲しみや痛みを必死に押し隠しているように見えた。
それでも、
「…オレ達、別れましょう。」
同じセリフを、彼は繰り返した。
ゆっくりと、
穏やかに、
だが、揺らぎ無い意志を以て。
「……………月、村…、」
無様に声が、擦れた。
だがそれを気にするような余裕など無い。
「……………、」
嫌だ。
たった一言が、喉に張り付いたように出せない。
そんな風に足掻いている間にも、彼はオレから離れてしまうかもしれないというのに。
何故だ。
何故オレは、月村に捨てられるんだ。
まだ付き合って10日目。
惚れて惚れて、口説き落として、漸く手に入ったのに。
お前を愛しいと思う気持ちは、増えこそすれ、1ミリだって減ってはいないのに。
「…何故、だ?」
「…っ、」
疑問を言葉にしてみたら、月村は、ビクリと跳ねた。
聞かれたくない、と全身で拒絶するように。
「…理由を教えてくれ。」
怯える彼に気付きながらも、オレは重ねて問う。
このまま聞き分けよく引き下がるなんて、無理だ。
オレが頷いてしまったら…此処で終わりになってしまう。
それだけは、絶対に、嫌だ。
「……………、」
暫く彼は俯いていた。
だがそれは数秒の事で、顔を上げた彼は、オレを見て、ゆっくりと口を開いた。
「…意味が、違ったんです。」
「…何?」
小さな声で、呟くように言った彼は、スゥ、と大きく息を吸ってから、
ニコリ、と綺麗な笑みを浮かべた。
「…っ、」
「…先輩が思う『恋人』と、オレが思った『恋人』…認識が違いました。…よって、『恋人』関係を、解消させて下さい!」
晴れやか、とは言えない。空元気見え見えだ。
それでも、確かに何かを吹っ切ったような笑みを浮かべる彼に、オレは息を飲む事しか出来なかった。
引き止めたいのに、言葉なんて見つからない。
もう彼の中で『過去』になりかかっているオレが、一体何を言ったら、彼の決意を変えられる?
……嗚呼、オレは一体、
何処で間違えた。
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