Others
3
大きな手が、ぐしゃぐしゃとオレの頭をかき混ぜた。
完璧にセットが台無しになったが、そんなの気にならなくなった。
グイ、と強めの力で引き寄せられ、会長の胸に顔を埋める形になる。
オレだって結構背丈あるから、中々寒い図になってるんじゃないかなぁ。
会長ファンの子らと違って、オレ可愛くないし。格好良い、とは言われるけど。
「…会長、」
「…お前は早とちりな所がある。勘違い、ではないんだな?」
顔は見えないが、真剣な声が確認するように問う。
言われて考えてみるが、思い返す必要さえ無いかもしれない。
「ソレ系の声がしたから、ビビったんだけど、一応隙間から覗いて見たんだぁ。ベタにマッサージ中かもしれないし。…そしたら、風紀委員長が、半裸の美人さんの腰掴んで、自分の腰押し付けて揺さ振ってた。」
「…そうか。」
会長の声が、低く擦れた。
何かを無理やり押し殺したような声音は、少し間をあけた後には、優しいものに戻っていた。
「…ねぇ、会長。オレって、チャラいじゃん?噂もいっぱいあるし。…だから、セフレって認識されちゃったのかなぁ?」
「月村。」
「親衛隊の子、毎日食い散らかしてる、とか、女の子孕ませて全寮制の此処にぶちこまれた、とかさ。」
「月村。」
会長はオレを宥めるように、背中をトン、トン、と一定のリズムで叩いた。
「お前は親衛隊と仲良いだろうが…セフレじゃなくて普通のダチとして。男と付き合うのも初めてだし、彼女だって中学時代に二人だけ、しかも最初は半年だったけど次は二年続いたって教えてくれたろ?お前のことだから、ちゃんとその子らも大切にしてただろうから、妊娠とかありえねぇし。」
優しい…ひたすらに甘やかすような声は、雨水が大地に染み込むように、ヒタヒタとオレの胸を満たす。
「チャラついてるっつっても、お前の髪色は遺伝だし、ピアスとかちょっと髪いじる位、皆やってるだろ。顔立ちが派手だからチャラそうに見えるだけだ。」
確かにオレは髪も目も肌も色素薄いけど、父親が北欧系のハーフで、オレがクォーターだからなんだ。
髪はワックスでセットしてるだけだし、アクセは両耳のピアスのみ。
「じゃあ、何で?…なんでオレ、振られたの?浮気、されたの?…なん、で…っ、」
ギュ、と会長のシャツを握り締めて、声を絞り出すと、会長はオレを抱き締める手に力を込めた。
「お前は、真面目で優秀な、自慢の会計だ。周りを気遣える優しさを持ち、下の奴らをさり気なく助けられる、凄ぇいい奴だよ。…恥じる事なんて、何もねぇ。」
「かい、ちょ…」
「ただ、」
「…?」
「男の趣味が悪い。」
真面目な声で、そんな事を言う会長に、オレは、フハ、と吹き出す。
「迷走しすぎなんだよお前は。…なんで真っ直ぐ、オレのところにこれねぇんだ。」
「何それ。」
クスクス笑っていると会長は、戯れのような軽さで、ペシリとオレの頭を叩いた。
「…まぁ、どんなに時間かかってもいいから、お前はゆっくり、お前のペースで来い。」
「……?」
「ゴール地点で、両腕広げて待っててやるからよ。」
「っ…、」
ぎゅう、と隠されるように抱え込まれ、オレは息を呑む。
包まれた緩やかな熱は、オレの中の頑なな何かを、いとも容易く解いてしまい、
色んな感情は、オレの目から雫となってこぼれ落ちた。
「…っ、…っぁ!」
ボロボロと溢れるものは、会長のシャツに染み込んでいくが、会長は何も言わずオレを抱き締め続けてくれる。
優しい優しい手は、ただオレを甘やかし、癒してくれた。
不器用で方向音痴なオレは、
これからも迷って間違って、凹んだりするんだろうけど、
下向いて立ち止まる事だけは、しないって決めた。
間違って何が悪い。
迷って何が悪いんだ。
回り道上等。
(それがオレの人生。)
(待っててくれる人がいるなら、怖いモン無し!)
END
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