Others
3
ガサッ、………
「…なんの音?」
「…さぁ?猫かな?」
物音に気付きつつも、たいして気に留めず、少年らは会話を続けた。
一方オレは、背後から感じる温もりと、口を塞ぐ大きな手の感触に、混乱している。
「………っ、」
飛び出す寸前、後ろから抱き締められ、声を出さないように手で口を塞がれた。
あまりの展開にパニックを起こし、オレは恐怖に凍り付きながらも、振りほどくように身を捩れば、
聞き慣れた甘い声が、耳朶を打つ。
「オレだ。…大人しくしていろ。」
「!?」
見上げた先、見慣れた男らしい美貌が、至近距離にある。
いつでも隣にいた、幼なじみで親友で悪友で、オレの想い人。
煉が、其処に居た。
……なんで、
なんで此処にいる?
瞳を見開いたまま、言葉無く問うオレの言いたい事をたぶん正確に読み取った煉は、何故か無言でじっとオレを見る。
「…………?」
口を覆っていた手が外され、そのまま指が、オレの目元をすべった。
「…!!」
その指が掬い上げた滴に、泣いていた事がバレた事を知る。
「…………、」
言い訳を探すオレを抱き締める手に、力がこもった。
密着した体から、煉の心音が伝わってくる。
「………、」
それに酷く安心して、身を任せそうになったオレは、ハッと我に返り、煉の胸板を押した。
すぐ其処に、煉の好きな子がいる。
こんな場面を見られでもしたら、益々勘違いされてしまう。
離れろ、と目で訴えても、煉は頷かなかった。
「…っ!?」
目を眇た煉は、オレの腕を引き、腕の中に閉じ込めるように抱き抱える。
強い拘束に戸惑う事しか出来ないオレは、小さな声で煉に訴えた。
「離せっ…勘違いされてしまうぞ…!?」
「いいから、大人しくしてろ。」
オレの抵抗を封じ込め、煉は、幼子をあやすように髪を撫でる。
普段なら心地好いその手も、心を挫かれそうな今は素直に受け入れられなくて、逃れるように首を振った。
それにム、と煉の機嫌が悪くなった事には気付かず、オレは必死に言葉を重ねる。
「せっかく彼も、お前の事を…、」
「もう、黙れ。」
―――なに、
ハ、と吸おうとした呼吸を奪われた。
言葉ごと、――彼の唇に。
愕然と瞠った瞳に、近すぎてぼやける、ピントのズレた煉の綺麗な顔。
「…っ!!?…、」
開いていた唇からは、容易く舌が侵入してきた。
傍若無人な舌が、躊躇い無くオレの舌を絡め取り、咥内を暴きたてる。
なに、
なにをしているんだコレは。
トサリ、と頭を抱えられたまま、芝生の上に押し倒された。
鼻腔を掠める草の香りと、嗅ぎ慣れた煉のにおい。
視界いっぱいの煉の背後からは、新緑の間からキラキラと降り注ぐ木漏れ日。
やけに艶っぽい目をした煉は、オレの眼鏡を外して、より深く唇を貪った。
息をするので手一杯なオレの唇を食み、オレの舌を引き摺り出して、何度も甘咬みを繰り返す。
ピチャ、…ズ、クチュ、
明るい場所にそぐわぬ、卑猥な水音に、オレは混乱しながらも、考える。
なんで、
なんでこんな事になった。
こんな事、オレと煉がしていい訳無い。
だって、これはキスだ。
大切な人との行為。
…あの子にするべき事を、何故オレにする?
貪るようにオレに口付ける煉は、普段の余裕も無くて、ふざけているようには見えない。
「…っ、ぁ」
「…いい声。もっと啼け。」
クチュ、と敏感な上顎の裏を舐められ、小さく声を洩らすと、煉は舌なめずりをして獰猛に哂う。
「…や、……声、聞こえ…」
「かまわねぇよ。…もっとだ、颯。」
必死に押し留めようとするオレの手を掴み、煉は低く耳元に囁く。
何で、何で、何でだ。
彼が、好きなんだろ?
こんな場面見られて、いいわけあるか。
「…あ、そろそろ戻った方が良くない?」
「本当だ。一旦帰ろっか。」
植え込みの向こうから、声とともに、埃を叩く音や道具を片付ける音がした。
「……っ、」
それともまさか、…見せつけたいのか?
馬鹿げた駆け引きに、寄りもによってオレを選ぶのか。
こんなにも、お前しかないオレを。
――ドンッ、
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