Others
2
どれ程オレが醜くて滑稽かなんて、誰に指摘されずとも知っている。
不器用で、短絡的。
不用意な言葉で誰かを傷付けては、後から悔やむ。
協調性が無く、愛想が無い。
仲良くしたいと思っても、いつの間にか距離を置かれてしまう。
欠点なんて数えきれない。
言えというなら、まだまだ言える。そんなネガティブなところも。
…オレはオレが嫌いだ。
自分にさえも好かれないオレを、誰が好いてくれるだろうか。
―――でも、叶うならば
沢山の人に愛されたいなんて、身のほど知らずな事は言わない。
煉だけでいい。アイツだけで、いいのに。
なんで、
「…そうだなぁ。…………………やっぱり、生徒会長かな…?」
――なんで、それさえも叶わないの。
「会長様!格好良いよねー!」
「うん。カリスマって、あーゆー人の事言うんだろうね。…憧れる。」
純粋な憧れや好意を感じさせる声が、オレの胸を抉る。
胸を押さえたままオレは、その場に蹲った。
「……………、」
…これで、よかったんだ。
何度も何度も、心の中で、そう繰り返す。
煉の恋が、叶う。
アイツが幸せになれるんだ。
オレは煉との関係を崩さないまま、諦める切っ掛けを手に入れて、
漸く一歩進める。
そして、
いつか、
今は無理だけど、いつか
幸せそうなアイツに、笑って言うんだ。
おめでとう、幸せにな、って―――、
―――――ポツ、
「………っ、」
手の甲を打った滴を、オレは呆然と見つめた。
ポツ、……ポツ、
暖かい滴が何であるかを自覚させるように、視界がボンヤリと滲む。
眼鏡を押し上げ慌てて拭うが、それはまるで決壊してしまったダムの如く、溢れ、止むことを知らない。
物心ついてから、泣く事なんてなかったのに。
ガキの頃から無表情で無愛想なオレは、よくそのせいで悪ガキどもに虐められたりしたものだが、それを助けてくれたのは、いつも煉だった。
行動力があって面倒見の良い煉は近所のガキ大将で、いつも元気に表を駆け回っていた。
反対に無愛想でひ弱なオレは、家に半引きこもり。
煉はいつもオレを誘ってくれたが、オレの返事はいつもノー。
大好きな本に囲まれていられれば不満は無かったし、煉はともかく、周りの知らない子達と遊びたいとは思わなかったから。
でも、ある日突然、煉はオレの返事を聞かずに外へ連れ出した。
文句を言っても離してもらえず、ヘトヘトになるまでつれ回されて、泥だらけで帰ったオレを見て、母さんは泣きそうな顔で、でも嬉しそうに笑った。
心配かけていたんだ、とその表情で悟り、煉がオレを無理やり連れ出したのも、母さんに頼まれたんじゃないかとなんとなく思った。
それを少し残念に思いながらも、ありがとう、と素直に礼を言ったオレに、煉は目を丸くした後、
何勘違いしてんだか知らないけど、オレはただ単に颯と遊びたかっただけだぜ、と、
まるで太陽のように笑った。
その後も煉に引っ張られ、オレは色んな経験をする。
良い事も悪い事も。
こんなナリで喧嘩が一応出来てしまうのも、確実にアイツのせいだ。
穏やかで温い日々も
ギリギリでスリル溢れる日々も、
いつだって隣には、お前がいた。
子供みたいに無邪気で我が儘にオレを振り回し、
かとおもえば、大人びた笑みで、優しくオレを包む、
たった一人の、オレの太陽。
「…………っ、」
お前がいなくなったら、どうしたらいい。
太陽がなくなったら、オレは何を目印に進めばいい?
怖い、
怖いんだよ、煉。
「…でもさ、会長様には…」
「…あ、うん。…分かってる。副会長がいるもんね?…大丈夫、ただの憧れだから。」
「…っ!!?」
続いていた会話を、意識を半ば飛ばしていたオレは聞き逃していたが、耳に滑り込んできた衝撃的な内容に目を見開く。
ハッキリとは言わなかった…でもそれは、オレと煉が恋人同士だと告げるも同然の言葉。
―――違う、
違うんだ、
「僕なんかが、お二人の間に割り込めるなんて、思ってないよ。」
待ってくれ。
勘違いなんだソレは。
「叶わない恋は、切ないだけだし。」
「っ…!!」
叶わなくなんて、無い。
諦めたりなんてしないでくれ。
オレは咄嗟に、彼の前に飛び出そうと、身を乗り出した。
自分の顔が涙で酷い事になっているのは、頭から抜け落ちていたんだ。
諦めなる必要なんて無い。
アイツが幸せになれるなら、煉の隣は、君に譲るから。
どんなに苦しくても哀しくても、―――煉が不幸になるよりずっといい。
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