[携帯モード] [URL送信]

Others
卑怯者×臆病者


オレは一週間前、長い初恋を終わりにする決意をした。





「副会長、来月の親睦会のタイムテーブルの確認、お願いします。」

「ああ。」

「すみませんっ、アンケートの集計遅くなりました!」

「先に其方に目を通す。寄越せ。………よし、特に問題なさそうだな。」

「あ、副会長。それ、よかったら僕打ちますよー?ソイツより確実に早いですし。」

「頼む。」

「了解でーす。」


忙しなく過ぎていく時間のおかげで、考えなくて済んでいるが、あれから何も進展していない。

状況も、オレの想いも。


…まぁ、『諦める事』を、進展と呼ぶのかは疑問だが。


相も変わらずオレは煉の傍に居て、今まで通り幼なじみの立ち位置のまま一歩も動けずにいる。


「……………、」


書類の確認を一通り終え、オレは凝りをとるように肩を動かし、長く息を吐いた。


「……………、」


ふ、と巡らせた視線の先、主のいない机に目を留める。
生徒会長、とプレートの置かれた机を見つめ、オレは眉間にシワを寄せた。

少し前に席を立った煉は、未だ戻ってきていないようだ。


「…この忙しい時に、何処をほっつき歩いているんだ、アイツは。」

「あ、確かに遅いっすね。」


独り言のつもりでこぼした言葉は、他の役員に拾われてしまう。


「最近会長、よくいなくなりますよね?何処行ってるんでしょ?」

「………………さぁな。」


なんの思惑もない何気ない疑問に、オレは勝手に傷付いて、それを誤魔化すように手元の書類に目を落とした。

…多分煉は、彼の…編入生の近くにいる。


ちゃんと話しかけて、知り合い程度に進展しているのか、
それとも遠くから見守っているだけなのかは分からないけれど。


「……………、」


ズキン、と
最近は馴染みになってしまった胸の痛みに、眉をしかめる。


…何が『諦める』だ。


オレの気持ちは、なんにも変わって無い。


傍にいれば嬉しい。
いなければ寂しい。
オレを気に掛けてくれたら嬉しい。
違う人を見ていたら哀しい。


哀しい苦しい痛い痛い痛い。


―――煉。


どうしたら諦められる?
どうすればコレを捨てられるんだ?


オレはどうしたら、何の痛みも感じずに、お前の恋を祝福出来るんだろうな?


―――――――――――――――




「………………、」


オレは、遠くから響く野球部の掛け声を聞きながら、校舎を背に歩きだした。

仕事が一区切りついたオレは現在、中々帰ってこない煉を探しに来ている。


編入生は美術部に入部したらしいので、オレはまず美術室へ向かったのだが、そこには煉は勿論、編入生もいなかった。
クラスメイトの美術部員にそれとなく聞いてみたところ、一年生は校舎外でスケッチしているらしい。


「……………。」


単純に思い浮かんだのは温室と庭園。理由はモチーフが選びやすいから。


「……………いた。」


キョロ、と見回した先、木の根元に腰をおろし、友人らしき生徒と談笑している編入生を見つけた。


「……………?」


だが、近辺に煉の姿は無い。

不思議に思いつつも、編入生から見えないように、後ろの植え込みの辺りへ移動する。


もう一度辺りを見回すが、煉を見付ける事は出来なかった。


「…、…なんだ。信じられる?」

「へぇ。凄いね。」


植え込みの向こうから聞こえる、楽しそうな声に、オレは知らず笑みを浮かべた。


…ああ、そうだ。
この子は、平穏な生活をしている一般生徒。

むやみに近付いて、この子の生活を壊すような事、煉がする筈無い。


煉は飄々として、たまに大雑把だが、ちゃんと周りを見渡せる奴だ。
自分の行動や言動が周りに与える影響力も、分かっている。


だから人目のある場所で話し掛けられずにきっと、此処から見えない場所で、見守っているんだろう?


「……………、」


笑いながらオレは、泣きたくなった。


そんなお前を好きだと思えば思う程、
どうしようもなく、苦しくなるんだ。


大切なのに、
幸せになって欲しいのに、

お前の恋が叶えば良い、と心から願う事が出来ない。


「…ね、誰か好きな人、できた?」

「えっ?」

「…っ、」


自分の思考に捕われていたオレは、後ろから聞こえた声に、息を飲んだ。


…聞きたく、ない。
まだ、確証なんていらない。


オレはまだ、一欠片もアイツを諦められていないんだ。


「す、好きな人って…」

「別に深く考えなくていいよ。誰か素敵だな、って思う人いないの?」


オレが怯えている間にも、無情にも話は進んでいく。
照れた可愛い声に、胸が引き裂かれそうに痛む。


こんな風に、オレにも可愛げがあったなら、お前に好かれたんだろうか。
可愛い、なんて思われたくないが、今は羨ましい。


オレが好きで好きでたまらない男の愛情を、知らず手に入れているこの子が、


妬ましい。


「………っ、」


これではまるで、お伽噺の魔女か継母だ。
忌み嫌われ、退治される存在。


こんな醜いオレが、愛されるわけ、無い。


.

[*前へ][次へ#]

9/19ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!