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Others
○い解答編


オレには、凄ぇ好きな奴がいる。






「…先輩っ!」


元気のいい声に呼ばれ、オレは足を止める。
振り返ると同時くらいに、腰にぶつかる衝撃。

…慣れてきた自分が嫌だ。


「…あのなぁ、」


説教まじりの苦言は、見上げてくるキラキラした目によって阻まれる。

まるでマメシバが、遊んで?とねだる仕草のような愛らしい様に、オレはまた今日も負けるのだ。


「…………。」


嘆息し再び歩きだせば、当然のように後をついてくるソイツの頭を、ポンと一撫でした。

挨拶がわりのソレを、ちゃんとコイツは分かってる。

いつも、オレがそうするとコイツは、笑う。

オレからは見えてないと思っているのか、僅かに俯き加減で、はにかむように笑うんだ。



……………あー…喰いてぇ。



…あ?喰ぃてぇっつーのは、そーゆー意味だよ。分かんだろーが。


好きな奴がいるっつったろ。


好きの種類的には、そーだな…、


全身ナメ回して、オレのを突っ込み喘がせたい好きっつったら、分かるか。


そんな意味でオレは、コイツ…丸山 円が、好きだ。


出会いは、カツアゲされてたコイツを助けた時。


一般人を助けてやると、大抵の奴はオレにも怯え、真っ青な顔で逃げてくもんだが、丸山は違った。

キラッキラした目で見上げられ、オレはらしくも無くたじろいた。


丸山は頭をキチンと下げ礼を言い、お名前を教えて下さいとまで言い出す。

オレは何だかその真っ直ぐな目に怯み、しどろもどろになりながら、逃げるように立ち去った。


その後、同じ学校だと判明し、オレを捜し出した丸山は、オレの後をくっついて回るようになった。


その頃は当然、恋愛感情なんて無い。
オレは普通に女が好きだから。

だから丸山の事も、少し気に入った後輩程度だった。


今は犬っころみてぇについてくるが、そのうち飽きて、去っていくんだろ。


そう、思ってた。


それが間違いだと気付いたのは、いつだったか。


「……………。」


オレの誕生日が今日だと知ってショックを受ける丸山を、ぼんやり眺めながらオレは考えていた。


「やっぱり、受け取って下さい。先輩が欲しいもの、用意するんで!」

「……………。」


オレの周りには、こうやって、オレに何かを与えたがる奴が結構いる。

丸山も、その一人だと思っていた。


…でも、違った。


オレは苦い思いを払うように、ガシガシと頭をかき、嘆息した。


「…親御さんからもらった金だろ。大事にしろ。」

「!」


オレの言葉に丸山は、目を丸くする。

けれどその驚き顔は、ゆっくりと、

とても嬉しそうな笑みに変わった。


瞳が、なにより雄弁に、

好きだ、と伝えてくれる。


「はい。…バイトします。」


オレの周りに群がる奴等は、オレの強さや外見に寄ってくる。

だからオレが説教じみた事を言い出すと、似合わないとか、幻滅だとか勝手な事を言う。


言わない奴もいるが、そーゆーのは大抵、オレを盲信している奴で、オレが言う事が絶対。
正しいか正しくないかの判断さえ、自分ではしない。


丸山は、そいつらとは全然違う。


オレの言葉をちゃんと聞いて、思ったまんま返してくれる。

好意は向けてくれるが、言う事を鵜呑みにはせず、理解して、その上で、

オレのそんな部分を、認めてくれるんだ。



――理解した瞬間、オチた。


それまで積み重ねてたコイツへの『好き』を、恋情に変えてしまうには充分過ぎるくらい、オレにとってソレは、稀有な事だったんだ。


今ではコイツが何やっても可愛い。
そんでもって、超喰いてぇ。


意識した途端、コイツが向けてくれる純粋な『好き』にさえ反応しちまいそうなオレがいた。


今の状況は正直、天国で地獄だ。


好かれてるのは、疑いようも無い、が。

それはオレの『好き』と同じものになり得る『好き』か?


分からないオレは、丸山に問題を出した。



期間は1ヶ月。


問題は、


誕生日プレゼントに、『丸山 円』を寄越せるかどうか。


アイツに丸投げする事に罪悪感はある。

でも、オレからじゃ、駄目なんだ。


丸山に、好きだ、と言うのは簡単だが、それじゃあアイツの答えを狭めちまいそうで。

オレが言ったら、アイツの純粋な好意を、オレの身勝手で、ねじ曲げちまいそうで。


だから、どうかお前から答えをだして欲しい。






「…答えは出たか?」


1ヶ月。

オレの前に立つ丸山は、暫くの沈黙の後、コクリと頷いた。


「…はい。」

「………そうか。」


聞いたのは自分だというのに、いざ、答えが出るとなると、尻込みしそうになる自分が情けない。

何十人に囲まれた喧嘩だってあった。
勘違いした女に、刺されそうになった事もある。

普通の男子高校生よりは、修羅場というものを経験した事があるというのに、それらは今この時、なんの役にも立たない。


怖ぇ。


コイツに嫌われるのは、そんなもんよりよっぽども、恐ろしい。


…だが、それでも向き合わねぇと。

オレはコイツを一月悩ませた。
意気地が無い自分のかわりに、答えを出させた。


その責任を――取らねぇとな。


「…なら、返事を聞かせてくれ。」

「はい。」


頷いた丸山は、ポツリポツリと話しだした。


「先輩に言われた意味を、オレはずっと考えていました。お風呂の時もご飯の時も寝る前も。…でもオレ、頭良くないから、上手くまとまらなくて、知恵熱でそうになって……そんで、じゃあ逆に、そうなったら困る事を考えてみました。」

「…………。」


やっぱ、男が男に『お前を寄越せ』って言われても、そっち方面に頭がいかないのが普通だよな。

改めてその事実と、自分の想いの成就率を知り、気持ちが沈みかけたが、まだ続いている丸山の話に集中する事にする。


「オレが、自分の意志関係無く『やれ』と言われて困る事。…先ず思い浮かんだのは、誰かを傷付ける事。何かを盗む事、後、自分が死ぬ事。」

「…おい、」


…いくらなんでも物騒すぎる。
恋愛方面に行けとは言わんが、血なまぐさすぎやしねぇか。


オレが苦々しい顔で突っ込みをいれようとするが、丸山はそのまま必死に話続ける。


「それは困る。困ります。…でも直ぐ思った。



――先輩が、そんな事言う筈無いって。」

「!」

「…つまりは、オレが『したくないこと』は、オレが先輩のものになっても、『しなくていいこと』なんです。……そんな物騒な事じゃなくても、先輩はオレに、嫌な事なんてさせない。だから、悩む必要なんてありませんでした。」


丸山は顔をあげ、晴れやかに笑う。

綺麗な笑みに見惚れたオレに向かって、両手を広げた。


「角田先輩。こんな誕生日プレゼントでよければ、どうぞ貰って下さい。」

「…っ、」


オレはくしゃりと、自分の顔が情けなく歪むのが分かった。

咄嗟にそれを見られないように、丸山の手を引き、腕の中に閉じ込める。


「わぷっ、」


奇妙な声をあげつつも、オレの腕の中に抵抗無くおさまった体を抱き込みながら、オレは、

コイツが愛しすぎて、暴走しそうになる自分を持て余していた。


…さっきのを聞くかぎり、コイツはオレと同じようにはオレを思っていない。

丸山がオレに抱くのは、真っ直ぐな信頼と、敬愛に近い好意。


恋情では、無い。


――それでも、もう逃がせ無い。


オレはコイツが欲しい。誰よりなにより。


例えお前が抱く想いが、『恋』ではなくとも、
オレはソレを、『愛』に変異させてみせる。


「……丸山。」

「…は、」


はい、と返事しようとした丸山の声を奪う。

チュ、と軽く押しあてた唇をすぐに離し、オレは志近距離で、丸山の大きく見開かれた瞳を覗き込んだ。



「……………嫌、だったか…?」

「………………、」


丸山はオレの問いに僅かに反応し、ゆっくりと指で唇に触れる。


「…………いや、では…なかった、です…。」

「…そっか。」


片言に紡がれた言葉に、オレは、ほぅ、と安堵の息を洩らす。

生理的に受け付け無い、と言われたら、どうしようもないからな。


「なら、丸山。」

「…は、い。」

「これからもすっから。」

「…は、……い?」


再び瞠られた瞳に、に、と笑みかけ、オレは続けた。


「嫌だと感じた場合は、ちゃんと言え。強要すんじゃ意味ねぇから。」

「え…え???」


置いてきぼりで戸惑う丸山が可愛くて、
オレはもう一度、チュ、とキスした。


「…そんで、もし、変な気分になったら教えろ。」

「………??」


真っ赤な顔で丸山は、首を傾げる。
いっぱいいっぱいな丸山の下腹部を押さえると、ひゃ、となんとも可愛い声がした。


……凄ぇムラっとする。


「…変な気分っつーのは、この辺りに熱が溜まる感じだ。」

「……ここ、ですか。」


真剣な顔で、両手で下腹部を押さえる丸山から視線を外し、オレは天を仰ぐ。



…可愛いすぎて、我慢出来る気がしねぇ。

なんだよソレ。孕んだみてぇで超萌えるんだが←


ああでも、
絶対我慢すっから。


強欲なオレは、


お前の体だけじゃなく、ちゃんと心も欲しいんだ。



そんなオレからお前へ、新たな問題を。




オレの気持ち=お前の気持ち
(上記の式を成立させるには、)
(何をくわえたら、いい?)

END

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あきゅろす。
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