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□い問題編
主要人物
丸山 円(マルヤマ マドカ)
角田に憧れる舎弟志願者。
マメシバっぽい平凡っ子。
角田 菱(カクタ リョウ)
目付きの悪い美形さん。総長。
若干オカン気質。
三角(ミスミ)
青髪のアシメ、関西弁な美形さん。
角田の悪友。
―――――――――――――――
オレには、大すきなひとがいます。
「先輩っ!」
パタパタと緩い足取りだったオレは、遥か前方に大好きな背中を見付け、全力疾走に切り替えた。
「…あ?」
ダルそうな仕草でゆっくりと振り返ったその人は、全くスピードを落とさず駆け寄ってくるオレを見付け、鋭い眼光を放つ瞳を瞠る。
ダダダ…ドーンッ、
「っ、………」
かなりの速度で突っ込んだにもかかわらず、びくともしない腰に、両手を回し、ぎゅうと抱き付いた。
そんなとこもカッケー!!とキラキラした目で見上げると、
猫の子を持つように、後ろの襟首をつかまれ、プランと持ち上げられた。
「…テメー、丸山。…突っ込んでくるのはヤメロと、あんだけ…」
苦々しい顔付きの男前に、オレは吊り上げられたまま、ヘラリと笑った。
「おはよーごさいます!角田先輩っ!」
「……………。」
説教途中だった角田先輩は、満面の笑みのオレを数秒見つめた後、諦めたような長いため息をついて、オレを床に下ろした。
そのまま再び歩きだす角田先輩の後を、犬のように着いていくと、大きな手が、ポン、とオレの頭を一撫でした。
実はこれは、さっきの『おはよーごさいます』の返事だったりする。
先輩は、言葉は少ないけど、冷たくなんてない。
見ず知らずのチビが不良に絡まれているのを、わざわざ助けてくれるくらいだから。
あ、ちなみにそれオレ。
ありがとうございました、ぜひお名前を!と頭を下げたオレに、先輩は困ったような顔で、『んな大した事じゃねえから、気にすんな』と立ち去ってしまった。
その漢っぷりに惚れ込み、探しだしたオレは、未だ舎弟志願者のまま先輩の後をくっついてまわってる。
パシリにもしてもらえないのは寂しいけど、オレはあきらめません!
見上げるような長身や、迫力のある美貌。
そして総長なんて肩書きまである為、一般生徒から遠巻きにされがちですが、
先輩は優しくて男気のある、
史上最高にカッケーひとです!
「えっ!?…誕生日!!!」
何時も通り先輩の後にくっついて、溜り場である屋上へと来たオレは、そんな叫び声をあげるはめになった。
「マドちゃん、知らんかったん?」
そう言ってオレを覗き込んでくるのは、アシンメトリーの青髪に、吊り上がり気味な一重の美形さん。
先輩のお友達の、三角(ミスミ)先輩。
「初めて知りました…。」
大好きな先輩の誕生日を知らなかった事が情けなくて、シオシオと萎れていると、三角先輩は、よしよし、とオレの頭を撫でてくれる。
「可哀想になぁ。マドちゃんがこないな反応するん分かるやろに…教えんかった菱(リョウ)が悪い。」
「…うるせぇよ。」
三角先輩のジトッとした目に、角田先輩は舌打ちしてそっぽを向いた。
あ。菱というのは角田先輩のお名前です。
ちなみにオレがマドちゃん言われているのは、名前が円(マドカ)というからです。
……というか、先輩のお誕生日が、まさか今日だなんて!!!
なんの用意もしていないのにっ!!!
「せ、先輩っ!!なにか欲しいものはありますか!?」
「………べつに無ぇ。」
「えぇっ…!!」
「いいんよ、マドちゃん。コイツはどーせ色んな女に貢がれまくるんやから。」
速攻却下され、オレがショックを受けてると、三角先輩が再びオレの頭を撫でながら皮肉げに口元を歪めた。
「アクセや洋服、果てはプレゼントはわ、た…」
「それ以上余計な口ききやがったら、速攻こっから突き落とす。」
楽しそうに話す三角先輩の口を、角田先輩は手で塞ぎ、ギロリと睨み付ける。
「…はいはい。おー怖。ホンマの事言ってるだけやのに。」
「受け取ってはいねぇ。」
先輩の手を外し、肩を竦める三角先輩に、角田先輩は眉間のシワを増やした。
「……………先輩。」
「あ?」
「やっぱり、受け取って下さい。先輩が欲しいもの、用意するんで!」
「……………。」
オレが必死にそう言うと、角田先輩は困ったような顔になる。
苦い顔でガシガシと頭をかき、嘆息した。
「…親御さんからもらった金だろ。大事にしろ。」
「!」
オレは先輩の言葉に、目を丸くした。
次いで、ヘラリと笑み崩れる。
オレは、先輩のこーゆートコ、
凄い好き。だいすきです。
「はい。…バイトします。」
「…………。」
「だから、早くても1ヶ月後になっちゃうし、大した金額にはならないと思うんですけど…先輩に、受け取って欲しいんです。」
お姉さん達みたいに、値の張ったものや、趣味の良いもの、
それからアハンなプレゼントは、逆立ちしたって無理なんですが、
それでも、
大好きな先輩の生まれた日を、どうかオレにも祝わせて下さい。
「………………、」
「わっ!?」
暫く黙り込んでしまった先輩は、唐突にオレの手を掴み立ち上がった。
驚きの声をあげるオレに構わず、先輩はズンズン歩いて行く。
引き摺られるように後をついていくオレの後ろ姿に、三角先輩は『気ぃつけや、マドちゃん。』と投げ掛けた、が、
気を付けるって、何を?
「先輩っ…?」
人通りの無い、特別棟の階段下あたりまで来て、先輩は漸く足を止める。
歩幅が全く違うので、息切れしているオレを振り返り、先輩はオレをじっと見た。
「……角田、先輩?」
オレが見上げると、先輩は瞳を眇た。
まるで肉食獣が獲物を捉えるような瞳に、妙な緊張感を感じる。
「…………なぁ、丸山。」
「…はい。」
「……お前、そんなにオレが好き?」
「もちろん!」
「……………。」
力一杯肯定すると、先輩は何故か額に手をあて、苦々しくため息をつく。
判断し辛ぇ。とボソリと呟いた先輩に疑問顔を向けると、
先輩は少し躊躇した後、オレをじっと見つめた。
「……誕生日プレゼント、なんでもいいのか?」
「はいっ!」
「本当に、なんでも、か?」
「オレに用意できそうなものであれば、なんでも。」
「…そうか。
なら、お前。」
「……………………………………………はい…?」
長い溜めの後、先輩が発した言葉に、オレはキョトンと目を瞠る。
先輩は、訂正する事も、繰り返す事も無く、真っすぐにオレを見ていた。
「……え、と……それは、どうい、」
「質問は禁止だ。」
戸惑いつつも呟いた言葉は、先輩に遮られる。
「オレに聞くのも、誰かに聞くのも無し。…お前なりに考えて、お前なりの答えを寄越せ。……期間は1ヶ月後。」
先輩は、置いてきぼりなオレを余所に、ルール説明だけして、長い指をオレへ突き付けた。
「1ヶ月後、答えをもらう。お前はソレを、オレへと与えられるか否かを教えろ。………ちなみに、ソレ以外のプレゼントは受け取らねぇから用意すんな。」
言うだけ言って、じゃあな、と身を翻し、さっさと去って行く背中を見つめながらオレは呆然と固まっていた。
誕プレ=オレ??
(上記の式の証明をせよ的な?)
(………頭パンクしそうなんですが。)
END
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