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Others
卑怯者の恋



「…気になる子が、出来た。」


オレは、その言葉に全てをかける事にした。




「……………、」


常に冷静沈着な幼なじみは、珍しくも僅かに目を瞠った。

硬質さを感じさせる美貌は、唖然とした表情のせいで、普段よりも幼くみえる。


全校生徒の憧れの、高嶺の花。

氷の副会長サマのこんな顔を見れるのはオレだけだ、と思うと、満たされる心地がするのは、オレが歪んでいるからだろうな。



ポカンとしていた可愛い表情は、すぐにいつもの仮面に隠されてしまう。
呆れたような顔に取って代わってしまった事を残念に思いつつも、オレはそれをおくびにも出さず苦笑した。


「その、『またか』って目、やめねぇ?」

「…無理だ。またか、と思っているからな。」


打てば響くような切り返しも、実は好きだ。
気を遣わないこのやり取りは、お前がオレに気を許してくれている証拠だから。



友達として
幼なじみとして、

ずっと、傍にいた。


でも気付けばオレは、お前を誰よりも愛してしまっていたんだ。


友情ではなく、

欲を伴った、生々しい恋情で。



何も知らずに隣で笑うお前を、オレはもう何度、頭の中で犯しただろう。


実際に手を出してしまおうとした事もある。


だが、出来る筈無い。


お前は、オレの唯一。


友であり幼なじみであり、最愛の人。


お前を、一時の欲で、失える筈が無いんだ。


だから、ずっと友達として傍にいた。


お前が好き過ぎて狂いそうになる度、街へ下り、適当な女を抱いた。
顔も体も特に拘りはねぇ。

ただ、お前に似たタイプだけは絶対に選ばない。


か細い糸のようなオレの理性は、

もう小さな刺激でも切れかねない。


だから、お前から一歩離れて、

出来るだけお前に似てない女を、性欲処理の為だけに抱き続けた。


そうやって、誤魔化し続けてきたのに――、


オレが一歩離れた間に、お前の傍に、違う奴が居座るようになってしまった。



獰猛な瞳と牙を上手く隠して、草食動物の群れに溶け込む曲者…名は確か、大地といったか。

いつもヘラヘラ笑って誰とも上手く付き合えるくせに、決して深くは踏み込まないアイツは、

オレの大切な幼なじみ…颯だけは、やたらと構う。


そーちゃん、なんて呼ぶ声を聞いて、オレはあの男を八つ裂きにしたくなった。


颯は、オレのものだ。

オレがずっと、大切に護ってきたんだ。


テメェなんぞの汚い手で、ソイツに触れるな――!!!






「……今回は、ちょっといつもとは違うんだよなぁ。」


なぁ、颯。


オレはもう、限界なんだ。


だから、卑怯な罠をはるオレを、どうか許して。


「…気になる子ってさ……うちの学校の子なんだ。」



さっきより大きく見開かれた瞳に、歪んだ笑みを浮かべるオレがうつっている。



どんな方向でもいい。

どうか颯、其処から動いて。


大切な幼なじみの位置を、お前が一歩でも動いてくれるならば、


オレはお前を捕まえよう。



嫌われても
泣かれても
憎まれても


オレはもう絶対に、お前を離さない。



―――さぁ、



この片恋に、
ピリオドを打とう。

(墜ちて来い。オレの腕の中へ。)


END


※煉目線の『片恋の終止符』→成就させること。


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あきゅろす。
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