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Others
臆病者の恋
主要人物

颯→眼鏡の知的美人な副会長。ネガティブ。ツンデレ。

煉→面倒見のいい兄ちゃんタイプの生徒会長。

大地→掴み所の無いチャラ男。

―――――――――――――――


「気になる子が出来た。」



***





「………………。」

「おーい。颯ー?そーちゃーん?」


ぼんやりと数日前の出来事を思い出していたオレは、目の前でヒラヒラと手をかざす男によって、現実へと引き戻された。


「…大地か。」


何か用か。と素っ気なく言い放ち、中指で己のシルバーフレームの眼鏡をあげる。


普段はヘラヘラと軽い笑みを常に浮かべている美貌を難しげに歪め、大地はオレを覗き込んだ。


「なんかあったのは颯の方っしょ?…お前がそんな風にぼんやりしてるなんて珍しすぎる。」

「…………。」


カンの良すぎる大地に、オレは思わず黙り込む。

大地との付き合いは、高校に入学してからだから、まだ二年もたたないのだが、まるで旧知のようにオレの事が良く分かる。

かなり愛想が悪く、常に無表情な為、『氷の副会長』なんて不本意すぎる呼ばれ方をしているオレの表情を読み取れるのは、コイツと、…もう一人、


幼なじみの煉(レン)だけだ。


「…煉に、気になる子が出来た、らしい。」

「………………。」


ますます難しい顔付きになった大地を、ぼんやり見つめながら、オレは幼なじみとの会話を思い返していた。


***






「……。」


気になる子、という言葉に一瞬動揺したものの、オレはすぐにいつもの仮面を被る。


呆れたように嘆息したオレに、煉は苦笑を浮かべた。


「その、『またか』って目、やめねぇ?」

「…無理だ。またか、と思っているからな。」


オレはうろんな目を向けつつ、そう言い捨てた。


コイツ…煉は、オレの幼なじみにして、この学園の生徒会長を勤めている。

男らしい美貌と、面倒見のよい気性で、全校生徒から慕われている完全無欠な男に見える、が、如何せん…女ぐせ、というものが悪い。


男子校である此処では問題を起こさずにいるが、夜になると街へと下り、女の子を物色する悪癖がある。

しかも長続きはせず、もって二週間程度という最悪さ。


そんな男の発言に、いちいち動揺する方が馬鹿馬鹿しい。


そう達観し、胸の痛みには、気付かないふりをした、


…のだが。


今回は、いつもとは違った。



「……今回は、ちょっといつもとは違うんだよなぁ。」


いつも飄々と笑う掴み所の無い男が、困ったように…照れたように笑う姿に、オレは目を瞠った。


「…気になる子ってさ……うちの学校の子なんだ。」

「…っ、」


オレは今度こそ、動揺を押し隠せなかった。

うちの学校。
つまりは、


――男。


オレは頭が真っ白になり、その後何を話したかもろくに覚えてなかった。




***



「…で、どの子だった訳?」

「…一年の編入生。」


何故か複雑そうな顔の大地に問われ、オレはため息まじりに呟いた。


「編入生って…どんな子だっけ?」

「………………いい子だった。」


オレも、大地と同じく思い出せず、

ならば、と腹を括り、直接見に行った。


その子は予想に反し、目立つ外見をした子ではなく、整った顔立ちはしているものの、地味な部類に入る子だった。


聞く限りは、成績も運動能力も並。

活発なタイプでもなく、どちらかといえば、聞き手にまわるような、控え目な少年。


でも、人望があり、努力家。


「そんな子を選ばれては…気の迷いだなんて、言える筈無い。」

「…颯。」


幼なじみで、
ずっと傍にいて、


気が付いたら、アイツが好きだった。


といっても、最初は友情だと信じて疑わなかったが、アイツに彼女がいると初めて知った時に自覚した。


…これが恋情だ、と。


けれど、何も知らずに隣で笑うお前に、そんな事言える筈も無く、

彼女が変わるたび、オレは胸の痛みを誤魔化し続けた。


女の子とオレでは、立場が違う。


アイツはノンケだが、この学園の風習に染まる可能性が無いわけじゃない。


いつか、
もしかしたら、



そう、浅ましい想いを抱き続けてしまったんだ。




「…もう、潮時かもしれない。」


これを捨てるべき時がきた。


もう、オレはアイツを騙し続ける事にも、
自分を騙し続ける事にも、


疲れたんだ。




この片恋に、
ピリオドを打とう。

(さよなら、長すぎた初恋。)

END


※颯目線の『片恋の終止符』→諦めること。


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あきゅろす。
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