Others
GAME
攻め:浮気男。肉食ワイルド系。
受け:健気…と思いきや。
場所は、とあるバー。
オレの彼氏がリーダーをしている暴走族の溜り場で。
周りには、各々の席で寛ぐ、それなりに強そうな幹部連。
そして、カウンター席で、キスシーンを繰り広げるカップルと、
ぼんやりとそれを眺める――オレ。
「…………。」
オレは無言のまま、何の感慨も無く、目の前で繰り広げられている濃厚なキスシーンを眺めていた。
「…っはぁ、ん」
色っぽい喘ぎのようなため息を漏らした美人(といっても男だが)を腕に抱いた男は、鋭い瞳を此方へ向ける。
今、気付いたと言わんばかりの意味ありげな笑みを向ける、野性的な美貌の男は、確かオレの恋人だった筈だ。勘違いでなければ。
しかも幼なじみにして、お隣さん。
ちょうど半年前に、オレに向かって『付き合え』と命令に近い告白をしてきたコイツは、付き合い初めて一月半が経過した頃から、浮気を繰り返すようになった。
元々、ただの幼なじみだった頃の、コイツの女性遍歴を見てきたオレ的には、意外でもなんでもなかったけど。
でも、意外でなかろうと、ショックは受けるモンで、最初は泣いたりも、した。
案外オレ、ちゃんとコイツの事、好きだったらしい。
泣いたオレを見て、コイツも慌てて、オレを抱き締めて謝ってくれたりとかしたから、その後は元鞘におさまった…かに見えたんだけど、コイツの浮気は、再発して、今ではもう、こんな状態。
コイツは隠しもしないし、
オレも、ノーリアクション。
倦怠期の夫婦より酷い有様。
…でもね。
今日からは、違う。
「……コウ。」
「……………?」
オレは、ふわり、と笑って彼の名を呼ぶ。
いつもと違うオレの反応に、彼は訝しむような顔をした。
「…別れよ。」
「………………。」
オレの言葉に、コウは瞳を眇る。
ま、オレがこんな事を言いだすのは、初めてじゃないし、その度、宥めたり謝ったり…それでもダメな時は無理矢理犯されたり、とにかくあらゆる手段で、却下された。
浮気するくらいなら、別れても支障ないと思うんだけど。
「…許すと思うか?」
そんな事認める訳ねぇだろ。と冷たく告げる男に、オレは口角を吊り上げる。
オレの冷笑を見て、目を見開く男が、何かを口にする前に、
ガツッ
「っ!?」
鈍い音がして、
彼はその場に倒れこんだ。
「…っ、が、はっ…」
地べたを這いずる男は、今何が起こったのか、理解も出来ないだろう。…当然だ。
今まで自分の腕の中で大人しくしていた美人が、自分を殴り倒した挙げ句、虫を見るような目で見下ろしているんだからな。
「お前のようなクズが、許す、だと?身の程を弁えろ。」
「な、…」
「そーだよねぇ。こんなのさっさと潰しちゃえばよかったのにぃ〜。マモルってば優しいんだから。」
そう言って、オレを後ろから抱き締めるのは、今まで傍観していた幹部の一人。
「より深い絶望と屈辱を与えるには、タイミングも重要だ。マモルは、それを良く分かっている。」
不良らしからぬ怜悧な美貌の男は、それでも、彼が信頼し横に置いていた筈の副長で。
気付けば、周りの全てが、彼…コウを、冷たい目で見ていた。
「…お前、ら…っ、」
ギリッと歯を食い縛るコウに、オレは殊更優しく笑みかける。
「…此処は、…この子らはオレがもらったよ。」
「…っ、」
「仕方の無い事だよね?…お前がチームを顧みずに、発情期の獣のように腰を振っていた間に、彼らがどんな目にあっていたか、お前は知らないだろう?お前が手当たり次第に喰った女の子が、他のチームの頭の彼女だったなんて、知らないだろう?激怒した奴等に、潰されかけてたなんて、知りもしなかったんだろ?」
「な、…」
目を見開く、お前。
強く美しく、
けれど傲慢で無知なお前。
愛していたよ。
でも、ね?
「…オレは、馬鹿は嫌いなんだ。」
ニィ、と笑うオレに、彼は息を詰めた。
「さよなら、コウ。」
さよなら、愚かしい、愛しい人。
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「…あっちのチームに引き渡す程度で良かったのぉ?」
温くなぁい?ずっと我慢してたのにー。と、オレの背中に張り付いたまま、不満げな声をあげるイチ。
「オレなんてキスまでしたんだぞ?しかもガッツリディープ…」
唇を乱暴に拭い、女の子顔負けの美貌を歪めるサン。
「大丈夫。…あっちのリーダーには、ちゃあんと躾してねってお願いしてあるから。」
タチの悪い笑みをこぼせば、オレの顎をすくい、唇が触れるような至近距離で、怜悧な美貌に、毒のような微笑を浮かべる、ニィ。
「あちらのリーダーまで誑かしているのか?…悪い子だな、マモル。」
「話し合い、しただけだよ。…いかがわしい言い方しないでくれる?」
ごめんね、コウ。
オレ、お前よりも、のめり込むものを見つけたんだ。
それは、タイプの違う美形のイチニィサンではなくて、
敵側のリーダーでもなく。
この、夜の街で、
喧嘩もろくに出来ないオレが、
機転と口先だけで、どれだけ上までのぼれるかっていう、イカレたゲーム。
もう賽は投げられた。
後には引けないこの感覚が、スリルが、オレの望むもの。
さぁ、次は、誰に罠を仕掛けようか――?
END
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