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GAME2

※彼女をコウに寝取られちゃった(笑)リーダー視点。



「……………。」


ガッ、ドスッ


室内に物騒な音が響き渡る。


港の倉庫街の一角にある、資材が積み上げられた倉庫の一つ。


錆びたドラム缶に腰掛け、オレは目の前の、ゲームという名のリンチをぼんやりと見ていた。


まず、一人の男の足を、短い鎖で固定し、手を少し長めの鎖で繋ぐ。


動きはかなり制限されているが、全く動けないわけでは無い。


そして、そんな男を囲む面々は、手に獲物を握っている。


獲物は木刀、釘バット、ナイフ、ナックル、スタンガンと種、様々。


そんな男らが、四方から男へ、次から次へと攻撃が繰り返されている。


「…っ、ぐっ、」


最初、男は、人間離れした能力でそれらを避け、逆に、攻撃を仕掛けた者を沈めていたのだが…流石に、数時間にもわたり、且つ相手は数十人。
最早リンチ以外のなにものでも無い。

時折、血飛沫が飛び、鉄サビ臭いにおいが鼻をつく。




…だが、


「……眠ぃ。」


オレは、目の前の惨事も気にとめず、欠伸を噛み殺し、ボソリと呟いた。


「…ダルい。とっとと帰りてぇ。」


こんなん見てても、全く面白くねぇしな。


「…総長。」

「何だ。」


本気で帰りそうなオレに、後ろに控えていた幹部の一人が、控え目に声をかけてきた。


「…レイナを捕まえたようですが。」

「あ?…んなモン、どうだっていーんだよ。」


レイナ、っつーのは、オレの女…だった。
つっても、女の一人だった、ってのが正しいか。


ま、目の前でリンチを受けてるクソヤローに寝取られたわけだが。


このオレが。


「胸クソ悪ィ。…女を殴る気もねぇから、何処へなりと捨ててこい。」

「了解致しま…」
「マオッ!!」


幹部の声を遮る、甲高い叫び。
耳障りなソレに眉を顰めると、今し方話題にのぼっていたレイナが、オレの足元に縋るように倒れ込む。


「…………。」

「ごめんねっマオッ…!!でも私、好きで浮気した訳じゃないわっ!!」


レイナは、派手な外見のワリに、頭がきれる珍しいタイプで、傍においていた。自信に満ちあふれ、高慢でさえあったが、そこが気に入って、いた。
…今のコイツには、その欠片さえ見いだせないが。


「…失せろ。」
「マッ、」


不快さに顔を歪めながら、冷たい目で見下ろすと、レイナは絶望的な顔になる。


「これ以上、惨めな姿晒すようなら、女だろうと容赦しねぇ。お前も、あんな目にあいてぇか…?」


親指で、血塗れの男を指すと、女はヒッ、と引きつった悲鳴をあげた。


「…私っ、」

ブブブ…


女が、悲壮な顔で、何か言い掛けた時、オレの携帯のバイブが鈍い振動音をたてた。


「……誰だ?」


画面も見ずに、苛立ったまま低い声で通話に出る。


すると、


『こんにちは、マオさん。』


少し高めの、耳に心地よい少年の声。
ごく普通の一般的な高校生の風貌で、けれどオレにビビるどころか、取り引きを持ち掛けてきた豪胆な少年。

大きめのアーモンドアイズを三日月形に細め、ニンマリと笑う姿は、何故か気紛れな猫を彷彿とさせた。


「マモルじゃねぇか。」


さっきまでの苛立ちが霧散する。


会ってまだ数日だが、オレが確信している事…それは、コイツはオレを退屈させないという事。
それと、オレがコイツに興味を抱いているって事。


「…………っ、マモル、だと…?」


低い呟きに顔をあげると、血塗れになった男は、手負いの獣のようなギラギラした目で、此方を睥睨していた。


…まるで、焦がれるような目で。


オレは、自然口角が吊り上がる。


本当、退屈しねぇ。


『マオさん、お届けもの、ちゃんと手元まで行きましたか?』

「届け物?…まさか、この女、お前が?」


視線を控えていた幹部にうつせば、無言で頷く。


『正しくは、うちの子らですが。その女性も元凶の一人だって言って乱暴しようとしたんで。一応止められたんですが、溜り場に置いていたらまた違う子に捕まりそうだったので、お返ししました。』


うちの子、という似つかわしく無いフレーズにオレは苦笑した。
猛犬どころか狼の巣穴だろ、あそこは。


「届いたぜ。」

『良かった。』

「…なぁ、マモル。」

『はい?』

「この女に、オレが制裁をくわえたら、どうする?」


オレの足元で、レイナは腰を抜かしたのか、短い悲鳴をあげ地べたに這いずったまま、後退る。


『別に、どうもしませんが?』


マモルの飄々とした言葉にオレはクツリと喉を鳴らして笑う。


「女に乱暴するのは、嫌いなんじゃねーの?」

『確かに好きではありませんが、』


その後に続いた言葉に、オレは思う。


やっぱ、コイツいいわ、と。


『それよりも、トップとしてのメンツの方が大事かと。』



「大概お前も鬼畜だよなぁ。」

『何を今更。…では、後はお好きになさって下さい。』

「おう。…あ、待った。」


通話を切り上げようとしたマモルを、オレは呼び止める。

リンチを受けつつ、此方を睨む男の存在を思い出したからだ。



「今、お前んとこの元リーダーにお仕置き中、なんだけどよ。」

『はぁ。』


強い視線の男に対し、マモルはどうでもよさげな、軽い相槌をうつ。


「もう止めて欲しい?それとも、もっとやって欲しいか?」


オレは、携帯をハンズフリーに変え、男にも聞こえるように突き出した。


『どちらでも。』


淡々としたセリフに、周りや男が固まる中、オレだけが楽しげに笑った。


『正直、興味無いです。』


一番堪えるだろう言葉を、マモルは難なく言い放つ。


「興味ねぇの?すげぇ辛い想いして欲しい、とかも無し?」

『特には。…マオさんは、街で擦れ違った人や、友達の友達の事を、不幸になって欲しいとか、幸せになって欲しいなんて思います?』

「んなワケねぇ。」


オレの言葉に、マモルは、ね?と同意した。


『オレの今の気持ちも、そんなトコです。』



マモルの言葉に、男の顔に絶望が浮かぶ。


知ってるか、マモル。


執着している人間からの、無関心は、


憎しみより、嫌悪より、辛いんだぜ?



オレは上機嫌で、喉を鳴らし、笑った。






「やっぱお前は飽きねぇな。」


END

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