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拍手C 清水視点。


《リトル・ダンディ@》
青さんと凛の過去話


「……っしゅん!」


「………。」


耳に届いた、小さなくしゃみに、オレ、清水凪は、眉間にシワを寄せた。

今、オレがいる場所は、使われなくなって久しい廃屋。

近くで抗争中の為、総長の指示で待機中。
外を張っている下の人間はカウントしなければ、ここにいるのは、オレともう一人だけ。

「…っくしっ。」

…再び聞こえる、押し殺したような、控えめなくしゃみ。


「……陰。」
「!」

名前を呼ぶと、メットを被ったままの少年は、ビクリと体を揺らした。


「な、何ですか?」

いつものコイツらしくなく、声が若干小さく、キョドっている。

…兄弟が多いオレは、こーゆー態度の奴の共通事項に心当たりがある。


それは、隠し事がある。

もしくは、聞かれたくない事がある。


そんなパターンだ。

「風邪。」
「!!」
「……ひいてるだろ。」


「…ソンナコト、ナイデスヨ…?」
「………。」

…何て、馬鹿正直な馬鹿なんだろう。
オレは無言で奴のメットを掴み、問答無用でズボッと引き抜いた。

「ぎゃっ!?」

「…陰。」


メットをとった陰の顔は、真っ赤で尚且つ目は潤んでいた。
若干、呼吸も早く、声も擦れている。

医者に見せるまでもなく、完璧風邪だ。


「…何で来た。」
「………。」

陰は叱られた子供みたいに、しゅん、と小さくなっている。

コイツをかなり大切にしている総長が、気付かないワケない。
こんな無茶させるはずもない。

…コイツが行きたいって駄々をこねない限りは。


「…今日は、朱雀さんの情報で、東区の《独炉》が動くそうです。到着予定時刻は、もう少し後ですが、挟まれると厄介なので。」
「…しちめんどくせぇ御託はいい。何で来た?」


オレが真っ正面から睨むと、陰は息を飲んだ。

けれどオレに気圧される事無く、真っ直ぐにオレを見返してくる。

「…黒さんが、心配だったんです。」

オレなんかが心配しなくても、黒さんは強いから大丈夫って分かってるけど…、と続ける陰を放置して、オレは電話をかけた。

「…総長、オレです。…動きますんで。…はい。大丈夫、その為の『導き手』です。」

プツ、と切ると、陰が目を丸くしていた。

「…青さん?」

ポケットに突っ込んであった地図を用意して、陰に見せる。

「《独炉》のルートは?」

「……この道は警官がよく張っているので却下。ここは、確か夜間工事中なので、こちらのルートを使うと思われます。…二通りありますが、ここで合流してますので、このポイントを外れる事は、まず無いかと。」

真顔になった陰は、オレの期待通り、正確なルートを導きだす。


「行くぞ。」
「えっ?」

地図をしまい、バイクのキーを取り出したオレに、陰は目を瞠った。


歩きだしたオレを、慌てて追いかけて来る陰を振り返って、オレが着ていたジャケットを投げる。

バサッ
「っ!?」

「着てろ。」

「……………はい。」

陰はオレを凝視した後、嬉しそうに笑った。
…まるで花開くみたいに、なんて形容詞を付けたくなったのは、気のせいだ。

陰に、ズボッとメットを被せる。

「…さっさと終わらせて、帰んぞ。」
「はい。」

下の奴らを集めて指示しながら、オレは内心で嘆息する。

総長は、オレが認めた唯一の男で。
半端な女が、あの人の隣に立つなんて、絶対に認めない、そう思っていた。

ところがあの人が、『特別』の位置を許したのは、何処にでもいそうな顔の《男》で。


―――でも。

役に立って、根性も度胸もあって。

その辺の女より、よっぽど健気で…可愛い奴だった。

「行きましょう。青さん。」


コイツが、誰かの『特別』な事を、惜しいと思ってしまうのは、きっと、隣の芝生が青くみえるのと一緒だ。


「…おう。」


オレはただ、お前の兄貴分でいよう。


―――発展しかけた感情に蓋をして。


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