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世界で一番。
第4位 清水凪
(※青さんの妹の、清水七海視点です。)
あたしのお兄ちゃんは、世界一の男前。
あたしこと、清水 七海(シミズ ナミ)は物心ついた時から、ずっとそう思っている。
あ。お兄ちゃんって言っても、あたしの双子の兄貴である海里(カイリ)ではない。
世界で一番素敵で男前なのは、一番上の、凪お兄ちゃんだけなのだ。
え?枕詞が増えた?
…それはしょうがないよ。
だって凪お兄ちゃんは、世界一素敵で格好良いい男前なんだから!
ブラコン上等!!そこら辺の家事も満足に出来ないケバい女になんか、絶対渡さないんだからね!
「ただいま。」
「!」
そう決意も新たに、あたしが握りこぶしを突き上げていると、玄関から凪お兄ちゃんの声が聞こえた。
チーズケーキを作ろうとして、台所を占領していたあたしは、慌てて玄関へ向かう。
「おかえり、お兄ちゃん!」
「おう、ただいま。」
凪お兄ちゃんは、元気に駆け寄ったあたしを見て、たれ目がちの目を、優しく細めて頭を撫でてくれる。
それが嬉しくて、お兄ちゃんの手に擦り寄っていると、小さな笑い声がした。
「?」
笑い声っていっても、馬鹿にするようなものじゃ無くて、
あたしや兄貴がバカな事言った時の凪お兄ちゃんみたいな、暖かい笑い方だった。
しょうがねぇなぁ、みたいな。
キョトンと目を丸くしたあたしが視線を向けると、お兄ちゃんの後ろに、知らない男の子がいた。
その人は、あたしが見ている事に気付くと、少し困ったみたいに、眉を下げる。
「ごめんなさい、笑っちゃって。馬鹿にした訳じゃないんだ。…ただ、凄くお兄ちゃん好きなんだなぁって、微笑ましくて。」
はじめまして、陰って呼んで下さい。
そう言って頭を下げた男の子は、あたしより二、三才年上だと思うのに、凄く丁寧で、
「…な、七海っていいます!…よろしくお願いします!」
びっくりした。
同い年の男の子みたいに乱暴でもバカでもないし、
お兄ちゃんがたまに連れてくるお友達みたいに、怖くもないし、ガサツでもない。
凄く美人って訳じゃないけど、綺麗で優しい陰さんの事が、あたしはすっごく素敵に見えたのだ。
「七海、チーズケーキ焼けたのか?」
真っ赤になったあたしに、苦笑しながらお兄ちゃんが言った。
…あ!!
それで思い出す。
今のあたしは、家庭科の時間に作ったピンクのエプロンつけっぱなしだし、手にはミキサーまで持っている。
恥ずかしっ…!!
「い、今からなの!まだ時間かかるんだ。」
そういえば、お兄ちゃんが帰って来る頃には焼き上がるつもりだったから、『チーズケーキ楽しみにしててね!』ってメール打ったんでした。
「コイツも食うけど、いいだろ?」
そう言って、陰さんを親指で指すお兄ちゃんに、あたしは再び赤くなった。
陰さんに食べてもらうんだったら、超頑張らないと!!
「勿論!!頑張ってつくる!」
気合い入れすぎると、必ず空回るあたしだけど、今この時は、そんな事頭から抜け落ちてた。
張り切って頷いたあたしに、陰さんは目を丸くした後、楽しそうに笑う。
「七海ちゃん。」
「は、はい?」
「お邪魔じゃなければ、一緒に作ってもいい?…よければ教えて欲しいんだ。」
「!よ、喜んで!」
そんなこんなであたしは、初めて男の人とお料理する事になった訳だけど、
「…ふわぁ、」
陰さんの手際は、素晴らしかった。
まるで魔法の様。
「凄いです。…卵割るのでさえ鮮やかとか…」
しきりに感心するあたしに、陰さんは照れくさそうな笑顔を見せた。
「そうかな?…あんまりお菓子って作った事無いんだけど。」
「普通のメシは、お手のものだけどな。」
珍しく台所で作業を見ている凪お兄ちゃんが、口を挟んだ。
照れた陰さんを見る目が、とっても楽しそう。
「へぇー、凄い!男の人なのに料理上手なんて憧れます!」
「上手なんてレベルじゃないよ…一応食べれる程度だし。」
キラキラした目を向けたあたしに、陰さんは困ったような顔で手を振る。頬っぺが少し赤い。
…なんだろう、このキュンとした気持ち。
憧れの先輩に抱くものとも違うし、お兄ちゃんに感じる気持ちにも、似てるようで違う。
もっと柔かくて、暖かくて…
「お前の料理は、嫁さんレベルだ。」
「青さんっ!!」
からかうような悪戯っぽい顔で笑う凪お兄ちゃん。
でもその目はすっごく甘い。
なんだろう…今作ろうとしている甘さ控えめチーズケーキじゃなくて、
生クリームもメイプルシロップもふんだんにかけて、更にアイスクリームまでのせてしまったパンケーキの様に、
大好き、可愛い、愛しいって気持ちを、これでもかってつめたその目に、あたしだって気付いたさ。
「将来、就職決まらなかったらオレに言えよ…いつでも嫁にもらってやっから。」
「青さんの馬鹿ーっ!!」
凪お兄ちゃんは、この人の事が大好きなんだって。
そして、もういっこ。
さっきからモヤモヤしていた、あたしの気持ち。
好きな人じゃなくて、
憧れの人でもなくて、
お兄ちゃんとも違う。
「…お兄ちゃん。」
「…ん?」
これは、あれだ。
「あたし、陰さんみたいなお義姉ちゃんなら大歓迎だよ!」
綺麗で優しくて、おまけに料理上手で
トドメにお兄ちゃんが大好きな人。
そんな人なら、
世界一素敵なお兄ちゃんをとられても、仕方ないって思うのだ。
…っていうか、あたし、ずっとお姉ちゃんが欲しかったし。
あたしの言葉にお兄ちゃんは、ニヤリと笑って、
陰さんは目をまんまるにした。
さぁ、お兄ちゃん
協力は惜しまないから是非とも頑張って下さい!
世界一素敵なお嫁さん
(ゲットのその日を夢見て!)
(青:さすがオレの妹…好みが似過ぎ(笑))
(凛:なんのお話ですか一体…。)
END
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