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とある夏の夜のお話
「…ない。」
冷凍庫を覗き込みながらオレは、思わず独り言を洩らした。
本日も清々しいくらいの晴天で、天気予報のお姉さんが言っていた通り、猛暑日となった。
日が沈み大分気温は下がったものの、肌にまとわりつくような湿気は解消されず、熱帯夜を過ごしている。
そんなオレが、何を欲しているかは悟って欲しい。
「アイスの買い置き終わってたんだぁ…。」
ガックリとしたのも束の間、直ぐ様決断したオレは、財布だけ持って、玄関へ向かった。
目的地、コンビニへ出発。
「黒さーん。」
靴ひもを結びながら、たぶんリビングにいるだろう黒さんを呼ぶ。
「凛?」
すぐに呼ぶ声が返ってきた。
「コンビニ行ってくるねー?」
トントン、と靴をはきながら振り返らずに言って、よし、と扉に手をかけたところで、
ガシ、と肩を捉まれた。
お?
「…黒さん?」
肩越し、顔だけで振り返ると、風呂上がりなのか上半身裸なままの黒さんがいて、
視線で『なに?』と問うと、黒さんは笑ってオレの頭を撫でた。
「オレも行く。」
「…やっぱり夏はガ○ガリ君ですねぇ。」
コンビニで目的のアイスと、ついでに新作のチョコを黒さんに買ってもらいご満悦なオレは、袋から出したアイスを一舐めして、ハァ、と満足げなため息をつく。
「暑い時はかき氷系が食いたくなるな。」
ガリッ、と音がし、隣を見ると黒さんもガ○ガリ君を噛っていた。
…この人、ガリ○リ君似合わねぇな。
輝かんばかりの美形が、庶民的なアイスを食べている姿はなかなかシュールだ。
黒さんが家でホームラ○バー食べてたのも、かなりの違和感があった。
まぁ、買ってきたのオレなんだけどね。
「凛のやつ、それ何味だ?」
白っぽいオレのアイスを、黒さんは不思議そうに覗き込んだ。
「梨味。ウマいですよ、食べます?」
答えながら口元に差し出すと、黒さんは直ぐにオレの手ごと軽く掴み、ダイナミックにかぶりついた。
食べ過ぎ!!…とか怒りません。
ええ、怒ってませんとも。
「…マジで、まんま梨の味なんだな。」
うまい。と笑った黒さんは、自分のアイスをオレに差し出した。
ちなみにスタンダードなソーダ味。
オレも遠慮無く、ガブリと大きく口に含んだ。
仕返しなんがじゃありませんよ。いやまさか。
モゴモゴと爽やかな味の氷を、口いっぱいに頬張っていると、黒さんは可笑しそうに笑いながら、オレの頭をグリグリと撫でた。
「…そういえば、」
「ん?」
「黒さんはなんか用があったんじゃないんですか?」
深夜ではないが、もう結構な遅い時間。わざわざ出掛けるのは面倒だと思う。
しかも黒さん、お風呂上がりだったし、尚更じゃないかな。
だから、何か用があったのかと思ったんだけど、黒さんが買ったのは、オレのチョコと、黒さんとオレのアイスのみ。
用事は?と問うオレに、黒さんは飄々と笑ってみせた。
「りぃとアイス買いに来た。」
「…?…アイスだけなら、オレが買って来たのに。」
そもそも、ちゃんと黒さんのも買って来るつもりだった。
黒さんは、不思議そうに見上げたオレを、優しい目で見つめ、甘く瞳を細める。
アイスを持ちかえた黒さんは、オレの空いてた左手を掴んで、ぎゅ、と優しい力で握り込んだ。
「お前と一緒に来る事に意味があるんだよ。」
プライスレスな幸せ、なんて一昔前のCMみたいな事を言い出した黒さんに、
オレは一拍置いて、赤面したのだった。
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