Main 泣けない泣き虫な君 …なんて場面に出くわしてしまったんだろう。 壁に張り付くように息をひそめながら、オレは天を仰いだ。 しずかちゃんの後ろ姿を見付け、駆け寄ろうとして、抱き合う二人に気が付き、慌てて隠れたのだが…。 その後、どんどん泥沼化していく事態に、益々出られなくなり、 …聞いてはいけない事まで、聞いてしまった。 『あの女の、子』 ――つまり、しずかちゃんは、耀子さんの子では無い。 と、いう事。 驚きつつも、妙に納得してしまうのは、この家に来てから抱いた沢山の違和感が、ソレ一つで解決してしまうからだ。 独り、離れに暮す彼。 似ていない、よそよそしい母。 他人行儀な、兄。 孤立した立場。 納得はいく、けれど 後悔してないわけじゃない。 少なくとも、こんな風に聞いていいものじゃない。 彼の、 彼の口を通さずに、こんな 不意討ちみたいな形で、 「………痛ぇ。」 こんな風に、ずっと1人で堪えてきたであろう痛みを、 勝手に暴いてしまうなんて――。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |